ヴァシュロン・コンスタンタンがルーヴル美術館の専門家を招き工芸展「ホモ・ファーベル」に出展。キーワードは、過去から未来へ文化を繋ぐ「修復」
2019年から様々なプロジェクトを通じて絆を育んできたヴァシュロン・コンスタンタンとフランスのルーヴル美術館。その両者がこの秋、職人の技術を讃えるヴェネツィアの国際的な工芸展「ホモ・ファーベル 2024」に共同出展する(9月30日まで)。彼らがパートナーシップを通じて目指すもの、そして同展での見どころとは?
時計界の最高峰が選んだアートとの繋がり
1755年に創業された、世界最古の時計製造マニュファクチュールとして知られるヴァシュロン・コンスタンタン。その約270年にも及ぶ歴史は、世界最高クラスの技術力で時計界の最高峰に君臨し続けた軌跡でもある。職人の手わざで、ため息が出るほど細部に技巧が施されたクリエイションは、時計愛好家のみならず美と贅を知り尽くした世界中の人々を魅了し続けてきた。
そんなヴァシュロン・コンスタンタンは、近年世界各国の美術館と協力関係を結び、「芸術」と「工芸」の新たな繋がりを率先して探求している。2019年にはパリ・ルーヴル美術館、2023年にはニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)とパートナーシップを締結。同年には、ヴァシュロン・コンスタンタンの哲学を体現する「One of Not Many(少数精鋭の一員)」キャンペーンの新たなタレントとしてアーティストのザリア・フォーマンを選出。2024年の冬には同氏を北海道ニセコ町に招き、大自然の中でのワークショップやトークセッションを行った。そして7月には、中国・北京故宮博物院内の教育機関「故宮学院」との文化的パートナーシップの締結を発表。緊密に連携しながら、今後さまざまな教育プログラムを展開していく計画だ。
不可能を可能にする職人技とアーカイブ
創業以来ヴァシュロン・コンスタンタンが深い敬意を払い、力を入れてきたのが「修復」だ。マニュファクチュールでは、時計の高い修復技術を持つ専門の時計師のチームが日々腕を磨いており、同メゾンにおいて修復できない時計は無いという。それが現存最古の時計であったとしても、保存されている当時の部品などを駆使しながら、製作当時と同じ特徴を維持するタイムピースへと仕上げていくのだ。
もちろん、ときにはパーツの在庫がない場合もある。そんなとき時計師たちは、ヘリテージ部門のアーカイブに赴き、メゾンが製作した全ての時計の詳細が記されている資料──設計図や図解、使用説明書など──の史的な技術データに基づいて、必要な部品を新たに製作するという。だが、それは決して容易なことではない。作業によっては19世紀の道具を使用しなければならないものもあり、これらの機械を使いこなすには、究極の精度と手先の器用さを必要とするのだという。
なぜそこまで修復にこだわるのか。その背景には、ヴァシュロン・コンスタンタンの「過去を知ることは、我々が何者であるかを理解することである」という信念がある。
これは、美術界の修復にも通底するものだ。古代ギリシャ・ローマ時代から絵画や彫刻の修復は行われてきたが、芸術作品を時を超えて受け継いでいくという行為には、「人類社会の進化を記録する」という重要な役割がある。そうして長きにわたって修復・保存されてきた作品は、私たちの祖先が紡いだ歴史や社会、価値観を教えてくれる存在なのだ。
ヴァシュロン・コンスタンタンの美学は、美術界と「修復・保存・継承」という行為を通じて志を共有しており、それはルーヴル美術館とのパートナーシップにおいても要となっている。
両者は、2016年に、当時、ヴェルサイユ・トリアノン宮殿国立博物館からルーヴル美術館に寄託されていた18世紀の貴重な精密時計「天地創造」の修復をヴァシュロン・コンスタンタンが支援したことをきっかけに、2019年から正式に芸術と文化におけるパートナーシップを締結。2020年12月に、コロナ禍の美術館への支援策として開催されたオークション「Bid for the Louvre」において、同社が擁するビスポークオーダーの「レ・キャビノティエ」のタイムピースを出品した。こうした活動が、9月1日からヴェネツィアで開催されている工芸展「ホモ・ファーベル2024」への、2022年に続き2度目となる会場ブースでの共演につながったのだ。
ヴァシュロン・コンスタンタンとルーヴル美術館の「傑作」が職人の技術で蘇る
「ホモ・ファーベル」は、ミケランジェロ財団が主催する国際的な工芸展だ。2年に1度ヴェネツィアで開催されており、3回目となる今年のディレクターは映画『君の名前で僕を呼んで』(2017)で知られる映画監督のルカ・グァダニーノと、建築家の二コラ・ロスマリー二。「The Journey of Life(人生の旅路)」をテーマに、約70カ国、400人を超える職人たちの手による作品が展示されている。ヴァシュロン・コンスタンタンは今回、ルーヴル美術館の修復を専門に行う工房と共に、「修復」というテーマで出展している。
ルーヴル美術館は、フランスの著名な家具職人ジャコブ・デマルテ(1770-1841)が製作した、金箔貼りのアップリケ装飾と贅沢なマホガニー・オーク材の突板によるキャビネット(1822)を同館の家具工房の専門家が修復する。
「19世紀の木工細工の傑作」とも評されるこのキャビネットは、ルーヴル美術館内のかつてJewellery Roomと呼ばれていた展示室(現在の展示室661) に、マリー・アントワネット所有の品やフランス王室が収集した宝石のコレクションを展示するために4点製作された。修復修了後の2024年秋から冬ごろより、最初に設置されたこの部屋で再び展示される予定だ。
一方、ヴァシュロン・コンスタンタンは歴史的なタイムピースの修復を専門に行う時計師が参加し、アンティーク時計の修復作業を実演する。また、会場内には、同社のプライベートコレクションから、メゾンのジェムセッティング職人によって丁寧に組み合わされたダイヤが並ぶ1985年発表のジュエリーウォッチ「レディ・キャラ」のほか、1908年の懐中時計などが展示される。
中でも注目は、100年前の傑作を製作当時の道具と時計製造技術を用いて2021年に蘇らせた「アメリカン1921 ユニークピース」。この修復についてヴァシュロン・コンスタンタンは、「20世紀初頭の時計製造技術に関する失われたノウハウを再発見することが困難だった」と語る。このプロジェクトに携わった時計師は、20世紀初頭のアーカイブや資料の研究だけでも500時間以上を費やしたという。
「ホモ・ファーベル」では、ヴァシュロン・コンスタンタンとルーヴル美術館双方の職人が「傑作」を蘇らせる姿を見ることが出来る。それらは「修復」という技術が見せる奇跡とともに、時計の技術や芸術作品の保存と保護の必要性を伝えている。是非この機会に2者が共有する価値観を体感していただきたい。
Homo Faber 2024
会期:9月1日(日)〜9月30日(月)
場所:サン・ジョルジョ・マッジョーレ島(イタリア・ヴェネツィア)
時間:10:00〜19:00