音楽プロデューサーでアートコレクターのショーン・コムズが人身売買の罪で起訴
ディディやパフ・ダディといったステージネームで知られるヒップホップ界の大物プロデューサー、ショーン・コムズが人身売買や恐喝の罪で起訴された。自宅では性的パフォーマンスを連日開催しており、麻薬や1000本以上の潤滑油が発見されたという。
ヒップホップ界を代表するプロデューサー、ショーン・コムズは、組織的暴力犯罪、性的人身売買、および売春に従事させるために被害者を国内外に派遣したことで提訴された。コムズは9月17日に出廷し無罪を主張したが、保釈は却下されている。もし有罪判決が下された場合、最低でも15年の懲役刑が言い渡される見通しだ。
「女性およびその他の個人に対する執拗かつ広範な虐待行為」の容疑で起訴されたコムズ。訴状には「被害者を殴り、蹴り、物を投げつけ、時には髪の毛を掴んで引きずり回した」と記されていたほか、コムズと彼の仲間は被害者を脅迫し、「フリーク・オフ」と呼ばれる数日間にわたる性行為イベントに強制参加させていたという。「コムズが主催していた性的パフォーマンスであるフリーク・オフにおいて容疑者は、その様子を見ながら自慰行為を行ったり、動画を撮影していたことが判明している」と、訴状には記されている。撮影された動画は、虐待行為を被害者が口外しないよう担保として使われていたという。
また、コムズに雇われた男性の性労働者は、国内外に派遣されていたことが判明しており、女性たちはケタミンやMDMA、GHBといった薬物を投与されたと、ニューヨーク南部地区の連邦検事、ダミアン・ウィリアムスは記者会見で語っている。
自宅から発見された大量の潤滑油
家宅捜索が行われた際には、「フリーク・オフの道具」が押収されており、1000本以上のベビーオイルをはじめとする潤滑油、そして薬物が発見された。他にも、シリアル番号が改ざんされた自動小銃と大容量弾倉が見つかっており、コムズと警備員は被害者を脅すためにこれらの銃器を携帯していたという。
記者会見において検事のウィリアムズは、「コムズ単独でこうした罪を犯したわけではない」と述べ、コムズが組織犯罪の共謀容疑で起訴されていると発表した。また、捜査が開始された際に容疑者らは捜査の妨害を試みたと彼は語り、こう続けた。
「コムズをはじめとする容疑者たちは、目撃者や被害者に圧力を黙らせようとするために目撃者や被害者に電話をかけたほか、被害に関する虚偽の供述をしたのです。権力や富、名声がどれだけあったとしても、誰もが法の下に平等であることを裁判で証明しようと思います」
莫大な資産と人脈をもっているコムズは逃亡の恐れがあると政府は主張しており、検察側は次のように声明を発表している。
「誰にも気づかれずに逃亡するために必要な資金や人員、手段のすべてが被告人にそろっています。被告がパスポートや自家用ジェット機が押収されたとはいえ、被告が司法の裁きを逃れるために手段は残されているのです」
こうしたなか、弁護士のマーク・アグニフィロは9月16日の夜にコムズが逮捕された際に次のような声明を発表している。
「不当とも言えるコムズ氏の起訴に対して私たちは失望しています。ショーン・ディディ・コムズは音楽界を代表するプロデューサーであると同時に、自らの手で夢をつかんだ実業家、慈善家、そして何よりも家族思いの愛情深い人物です。30年にわたって彼は自分の帝国を築き上げ、子どもたちを愛し、黒人コミュニティの地位向上に勤めてきました。彼は完璧な人間ではないとはいえ、犯罪者ではありません。コムズ氏はこの捜査に全面協力しており、今回の起訴を予期して自らニューヨークに拠点を移しています捜査に協力的な姿勢を示している無実の男は、自身の名誉を法廷で回復することを心待ちにしています」
相次ぐ被害者からの告発
これ以外にも、暴言や暴行、性的暴行、そして精神的苦痛が加えられたとして、女性R&Bグループ、ダニティ・ケインの元メンバーであるドーン・リチャードが9月10日にコムズを提訴している。また、5月、CNNは、当時交際していたR&B歌手のキャシー・ヴェンチュラに暴行を加えているコムズの動画を投稿しており、2016年に撮影されたこの映像は、昨年11月にヴェンチュラが起こした訴訟で申し立てられた主張と一致している。これを皮切りに複数の女性がコムズを提訴しているのだ。
同時期にジョイ・ディッカーソン・ニールは、「コムズが薬物を投与し、性的暴行を加え、虐待した」と主張し、ニールの同意なしに撮影された「リベンジポルノ」の被害者であると訴えた。そして、1990〜1991年の間にジェーン・ドウは、コムズとR&B歌手のアーロン・ホールがドウと彼女の友人を交互にホールのアパートでレイプしたと12月に主張。コムズはこれらの申し立てを否定している。
今年の3月には、人身売買捜査の一環として、コムズが所有しているマイアミとロサンゼルスの物件が国土安全保障調査局(HSI)によって家宅捜索されており、同省は次のような声明を発表した。
「国土安全保障調査局ニューヨーク支部は、ロサンゼルス及びマイアミ支部、そして地元の捜査当局の支援を受け、進行中の捜査の一環として法執行措置を実施した」
コムズの弁護士を務めるアーロン・ダイアーは、この捜査を「前例のない奇襲」であり「魔女狩り」だと非難し、次のようなコメントを当時残している。
「コムズ氏の自宅で家宅捜索が行われた際には、軍隊レベルの力が乱用されました。当局による過剰な武力行使や敵意、あるいは彼の子供や従業員に対する対応に弁解の余地はありません。コムズ氏は無実であり、今後も自身の名誉を回復するために戦い続けることでしょう」(翻訳:編集部)
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