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この価格は妥当? アンディ・ウォーホル「撃ち抜かれたマリリン」の肖像が1億9500万ドルで落札

アンディ・ウォーホルによるマリリン・モンローの肖像、《Shot Sage Blue Marilyn(ショット・セージ・ブルー・マリリン)》(1964)が、5月9日夜、ニューヨークのクリスティーズで1億9500万ドル(約254億円、手数料込み)で落札。20世紀の作品として史上最高額を記録した。落札者は、会場でオークションに臨んだ世界有数のアートディーラー、ラリー・ガゴシアンだ。

アンディ・ウォーホル《Shot Sage Blue Marilyn(ショット・セージ・ブルー・マリリン)》 (1964) Anthony Behar

アンディ・ウォーホルが1964年に制作したマリリン・モンローのシルクスクリーン作品が、20世紀の最も有名な肖像画の1つであることは間違いない。今回落札された作品は、モンローが53年に出演したサスペンス映画、「ナイアガラ」の広報写真をもとに制作された。ウォーホルは87年に亡くなるまで、同じ図像を繰り返し使用している。

 《Shot Sage Blue Marilyn》は、ニューヨークのダウンタウンにあるウォーホルのスタジオで、アーティストのドロシー・ポドバーが、積み重ねられていた作品に向かってピストルを撃った事件で知られる「ショット・マリリン(撃ち抜かれたマリリン)」のうちの1枚で、過去50年にわたり個人コレクションとして保有されていた。ウォーホル作品としては、2013年にサザビーズで記録した《Silver Car Crash(Double Disaster)(銀色の車の事故〈二重の災禍〉)》(1963)の落札価格、1億540万ドルのほぼ2倍となる。

 今回のクリスティーズのオークションは、ウォーホルとモンローへの関心が再燃しているトレンドの波に乗ったものだ。今年に入ってから、ネットフリックスでアンディ・ウォーホルの私生活を追った6部構成のドキュメンタリーシリーズ「The Andy Warhol Diaries(アンディ・ウォーホルの日記)」や、ドキュメンタリー映画「The Mystery of Marilyn Monroe: The Unheard Tapes(知られざるマリリン・モンロー:残されたテープ)」が公開されている。

 さらに、モンローの死の数カ月前にジョン・F・ケネディ大統領(当時)に向け、ため息混じりに「ハッピーバースデー」を歌った際に着用した“ヌード”ドレスも再び注目を集めた。5月2日にメトロポリタン美術館(ニューヨーク)で開催されたメットガラで、キム・カーダシアンがこのドレスの実物を着てレッドカーペットに登場し、ファッション分野の保存・管理の専門家の間に波紋を呼んだのだ。

 ウォーホル作品はオークションの最後に出品され、4人の入札者が競り合った。1人はクリスティーズの印象派・近代絵画部門共同代表のエイドリアン・マイヤーとの電話で、2人はニューヨークの専門家との電話を通して入札。ガゴシアンは会場で競りに参加していた。オークションは購入保証なしで行われ、1億7000万ドルで決着。これは、クリスティーズが予想した価格である2億ドルを3000万ドル下回っている。ガゴシアンへの最終的な販売価格は手数料を含む1億9500万ドルとなった。

 作品の出品者は、スイスのトーマス・アンド・ドリス・アマン財団。アマン姉弟は1977年にトーマス・アマン・ファイン・アートを共同設立し、近現代アートの著名コレクターを顧客に抱えていた。トーマスの死後、ドリスは2021年3月に76歳で亡くなるまで同社の経営に当たっている。

 《Shot Sage Blue Marilyn》はウォーホル作品の価格の記録を更新しただけでなく、パブロ・ピカソの《アルジェの女たち(バージョンO)》を抜き、過去にオークションに出品された全美術品の中で史上2番目の高額を付けている。《アルジェの女たち(バージョンO)》は2015年にクリスティーズでオークションが行われ、1億7900万ドルでカタール王族のハマド・ビン・ジャシム氏に売却されたと報じられた。なお、オークション落札価格の最高記録は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる《サルバトール・ムンディ》の4億5000万ドル。

 ニューヨークの美術鑑定家デビッド・シャピロは、ARTnewsの取材に答え、ウォーホル作品が達成した記録的な落札価格は、超一流アーティストの作品には妥当なレベルだと評価した。シャピロによれば、5点しか存在しない有名な「撃ち抜かれたマリリン」シリーズの作品は安定して高い人気があり、入手できる資金を持つ個人コレクターはほんの一握りしかいないという。

 今回の落札によって、ウォーホルはピカソと並んで今日最も価値の高いアーティストになった。シャピロは、「トロフィーアート(所有者のステータスシンボルとしてのアート)の市場は大きい。そこから見ると、2億ドルという数字は、ここ数年の個人ディーラーによる販売価格の動向に沿ったものだ」と述べている。(翻訳:清水玲奈)

 ※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月9日に掲載されました。元記事はこちら

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