欧米アート業界の給与満足度が20%ダウン。人員削減と収入減で副業増加の現状を人材会社が報告

アート業界の人材とその待遇動向などに関する調査報告が3月17日に発表された。それによると、欧米のアート市場における給与満足度は前回の2022年調査から約20%低下している。

サザビーズのオークションで出品作品を展示するスタッフ。Photo: Chris J Ratcliffe / gettyimages

専門人材紹介会社のSML(ソフィー・マクファーソン・リミテッド)とアート市場調査大手のアートタクティック社が、第2回の「SMLアート・マーケット・タレント:レポート」を3月17日に発表。同レポートは、政治的変化や市場の低迷などが給与水準に大きな影響を与えたと分析している。

2022年の第1回調査は、イギリスアメリカのアートギャラリーオークションハウスの給与水準を集計した初の業界リポートだった。これに続く第2回は2023年から24年にかけて調査が行われ、1590件の回答をもとに報告書が作成された。

同レポートによると、調査対象者全体の給与満足度は2022年から19.6%ダウン。特にアメリカでは落ち込みが大きく、満足度は25.7%低下した。アメリカの年収額は、2022年の平均7万5000ドル(直近の為替レートで約1125万円、以下同)から2024年には7万ドル(約1050万円)に減少。一方、ヨーロッパでは平均4万3500ユーロ(約713万円)から5万ユーロ(約820万円)に増加、イギリスでも平均3万5000ポンド(約683万円)から4万ポンド(約780万円)に増加している。

年収額は事業規模との相関が見られ、ヨーロッパでは中堅企業(従業員数21人以上250人未満)の平均5万ユーロ(約820万円)に対し、大企業(従業員数251人以上)では6万ユーロ(約984万円)と、2割ほど高くなっている。

雇用者側が特に頭を悩ませているのは、政治情勢や市場の不安定さだ。政権交代で政策が転換したことによる先行き不安もあり、雇用意欲が減退。多くの組織がリストラを余儀なくされ、人材の確保と仕事の満足度維持が困難になっている。

こうした中、副業で副収入を得ているとした回答も多く、小規模企業(従業員数5人未満)の場合は54.1%が有給の副業をしていると答えている。また、この傾向は、特に30代における給与水準への不満との連動が見られるという。副業で多いのはフリーランスのアートアドバイザーで、そのほか講師、ソーシャルメディア・コンテンツ制作、執筆・編集、キュレーションなどがある。

バラ色とは言えない調査結果に、さらに影を落としているのがトランプ政権によるDEI(多様性・公平性・包摂性)廃止政策だ。調査レポートによると、現状でも白人従業員と黒人従業員の格差が目立ち、前者の給与中央値がイギリスで4万1375ポンド(約807万円)、アメリカで9万ドル(約1350万円)のところ、黒人スタッフの中央値はそれぞれ、2万6000ポンド(約507万円)と6万7000ドル(約1000万円)にとどまっている。

同レポートはDEI政策の廃止について、「性別や人種、社会経済的な背景に関連した無意識の偏見」を増大させる可能性があるとし、DEIの方針は「どんなレベルの採用にも組み込まれなければならない」と提唱している。

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