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モスクワの現代美術館「ガレージ」、SANAAによる歴史的建築の改修で拡張へ

モスクワにあるロシア最大級の現代美術館、Garage Museum of Contemporary Art(ガレージ)が大幅な拡張計画を進めている。ゴーリキー公園のランドマークで、何十年も放置されていた歴史的建築であるヘキサゴンを再生し、新しい展示スペースをオープンする予定だ。日本の建築家ユニットSANAAが美術館のパートナーとなり、ロシアの建築家イワン・ジョルトフスキー設計の建物を改修する。

ヘキサゴン(モスクワ)の完成予想図 Renderings Courtesy SANAA/GarageMuseum of Contemporary Art
ヘキサゴン(モスクワ)の完成予想図 Renderings Courtesy SANAA/GarageMuseum of Contemporary Art

美術館の共同設立者で、著名なアートコレクターでもあるダーシャ・ジューコワは、声明の中でこう述べている。「ガレージは引き続き、社会的文脈を反映し、同時代性があり、協働的な作品を後押ししていきます。ロシアの伝説的な建築家、イワン・ジョルトフスキーが設計したヘキサゴンが、SANAAの思慮深く繊細なリノベーションでよみがえります。ガレージはロシアの歴史に根ざしながら、現代のグローバルな対話の中へと拡大していくことでしょう。ガレージは現代の美術館にふさわしい機能、目的、責任を達成することを常に目指しているので、建物もその方向性を反映するものでなくてはなりません」

1923年、ロシア初の農業・工業博覧会のために建てられたヘキサゴンは、機械製造部門の機械・工具(機械化)を展示するパビリオンだった。同博覧会では唯一の鉄筋コンクリート造で、現存している唯一の建物でもある。

「ヘキサゴン(六角形)」は、この建築の特徴的な構造から名付けられた。新古典主義様式の6つの建物が単層の回廊でつながって、中庭を取り囲む造りになっているのだ。1928年、このパビリオンは公園の一部となり、当初は夏季のみ営業する食堂に転用された(ヘキサゴンと呼ばれるようになったのは1935年以降)。廃墟になる前は、ダンスホールやレモネード工場として使われたこともあるが、度重なる火事により建物は荒廃。1999年になり、モスクワ市政府が庭園・公園設計の記念物として保護することを宣言した。

SANAAの改築では、柱や噴水池の配置、各パビリオンを結ぶ通路など、ジョルトフスキーのデザイン要素を生かしつつ、エネルギー効率を重視した地熱システムや、モスクワの厳しい冬に耐えられる高機能ガラスを採用するなどの工夫が加えられる。ヘキサゴンの改修が完成すれば、9500平方メートルの機能的な空間に3つの展示室と、図書館、書店、カフェが設けられる。中庭はパブリックスペースとして再び一般に開放される予定だ。

ガレージを設立したのはジューコワと、当時の夫、資産家ロマン・アブラモビッチ。彼らが最初に住んだ家が1920年代のバスの車庫だったことから、ガレージと名付けられた。美術館は2015年、ゴーリキー公園にある現在の建物に移転。元はミッドセンチュリースタイルのコンクリート建築で、レム・コールハースとOMAが改築を担当した。かつて食堂だった建物のモザイク壁、タイル、レンガなど、ソビエト時代のディテールが保存されている。

「ガレージは、美術館を構成する歴史的建築(バフメチェフスキー・バス・ガレージ、ブレメナ・ゴーダ・カフェ)の価値を見直し、再定義し、最終的に現代の環境の中に戻していく試みに新しい章を加えた」と、同美術館のアントン・ベロフ館長は述べている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年11月22日に掲載されました。元記事はこちら

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