ARTnewsJAPAN

カンディンスキーなど総額160億円超の美術品を押収。所有者一家は盗品の回収に執念

この2月、個人コレクターから盗まれた疑いがあるとして、フランス当局が100点を超えるロシア・アヴァンギャルドの作品をパリの美術研究所から押収した。これらはパレスチナ出身の実業家の所有物とされている。

画商イツァーク・ザルグのコレクションより、アレクサンドラ・エクステルの《Venice》(1924年頃)、カンバスに油彩。Photo: Courtesy the Zarug Collection

パリで押収されたロシア・アヴァンギャルドのコレクションには、ヴァシリー・カンディンスキーカジミール・マレーヴィチ、ナタリア・ゴンチャロワといった著名作家の絵画が含まれており、その価値は総額で1億ユーロ(直近の為替レートで約163億円)を上回ると見られる。

フランクフルトの国際法律事務所デントンスによると、これらの美術品はパレスチナ出身でイスラエル在住の実業家・投資家、ウスマーン・ハティーブの所有物だという。ハティーブは、ドイツの温泉保養地であるヴィースバーデンに借りていた倉庫から、2019年12月に絵画が盗まれたと主張している。

これに先立ち、昨年やはりハティーブが所有していたとされる作品群が、フランスの裁判所の執行官によってフランクフルトの倉庫で押収された。ハティーブの弁護士は声明で、押収品は「数百点」に上ると回答したが、正確な数は明かされていない。

ハティーブの息子、カストロ・ベン・レオン・ローレンス・ジェイユーシは、窃盗の被害に遭った約900点の美術品を取り戻そうと、プラハを拠点とする訴訟金融会社リットフィン・キャピタルから融資を受けて活動している。昨年だけでも、ハティーブ・コレクションの複数の作品が、イスラエル、フランス、モナコのオークションに出品・落札されたという。

ハティーブは2015年、ヴィースバーデンでギャラリーを経営するイスラエル人画商のイツァーク・ザルグから、1800点もの絵画コレクションのうち871点を購入。しかし、このコレクションには贋作の疑いがあるとして、ヴィースバーデンの検察当局が差し押さえを行った。偽造組織の首謀者だとされたザルグは服役していたが、2018年にヴィースバーデンの裁判所が偽造罪と共謀罪を取り下げた。その代わり、ザルグとそのグループは、出所を偽ってニセモノを販売したとして、当初より軽い罪での有罪判決を受けている。

2019年に当局はコレクションをザルグに返還。その中にはハティーブが入手した作品も含まれていたが、裁判所の記録によると、その後ヴィースバーデンのハティーブの倉庫から何者かによって持ち出された。ジェイユーシは、誰が盗んだか分かっているとしてコレクション返却の交渉を試みたが、不調に終わったため法的手段に出た。しかし、2022年の時点で回収できた作品はなく、作品はオークション市場に流れ始めたと伝えられている。

2023年にフランクフルト高等裁判所は、執行官がハティーブのコレクションを倉庫から回収することを認める裁定を下した。ハティーブ家の弁護団は現在、持ち出された作品を保有していると見られるフランスとイスラエルのオークションハウスとの連絡を取っている。これについてジェイユーシは、アートニュースペーパーに次のように語った。

「私たちは犯人を追求し、世界中に散らばった作品の回収を続けます。ロシア・アヴァンギャルド作品の購入を検討する場合は、出所をよく調べ、私たちの家族が所有していた盗品でないことを確認するようにしてほしいと思います」(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい