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2024年ヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ館、先住民のアーティストが史上初の単独代表に

2024年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレアメリカ館代表作家に、ジェフリー・ギブソンが選出された。90年を超えるアメリカ館の歴史の中で、先住民のアーティストが単独で代表となるのは初という歴史的な決定だ。

ジェフリー・ギブソン Photo: Courtesy MaCarthur Foudation

ミシシッピ州のチョクトー族の一員で、チェロキー族の血を引くジェフリー・ギブソンは、鮮やかな色彩の絵画や彫刻などで知られている。作品にはテキストが組み込まれたものが多く、ポップミュージックの歌詞を流用したものもある。西洋のモダニズムとネイティブアメリカンの工芸品双方のスタイルを融合させようと試みる彼の作品は、時に抽象的な傾向を感じさせる。

スプレー・ペインティングなどの技法と並び、制作で重要な位置を占めているのがビーズ細工だ。たとえば、ギブソンの作品で最も有名なものの1つに、ビーズ刺繍で覆われたサンドバッグのシリーズがある。その模様は、パウワウという儀式でダンサーが着る衣装を思わせる。

ギブソンとともにアメリカ館の指揮をとる2人のキュレーターには、インディペンデントキュレーターのアビゲイル・ウィノグラッドと、ポートランド美術館のネイティブ・アメリカン・アート担当キュレーター、キャスリーン・アッシュ=ミルビーが選ばれた。ナバホ族の一員であるアッシュ=ミルビーも、アメリカ館初となる先住民のキュレーターだ。

2人のキュレーターは、ニューメキシコ州のアート系非営利団体、SITEサンタフェのディレクター、ルイス・グラチョスとの協働でアメリカ館の制作を行う。これまでアメリカ館は、ほとんどが北東部を中心とした東海岸の美術館に委託されてきたので、今回ポートランド美術館とSITEサンタフェがアメリカ館を担うこと自体、異例の決定だ。

アッシュ=ミルビーは声明でこう述べている。

「ジェフリーは、そのキャリアを通じて革新的で活気に満ちた作品を生み出し、世界を違った角度から見るよう私たちを促してきました。彼の包括的で協力的なアプローチは、アメリカ国内のみならず、世界中でネイティブアメリカンの文化が影響力を持ち、持続的なものであることを力強く示しています。彼は、今この時代におけるアメリカの理想的な代表と言えます」

アメリカ館の「初の快挙」は、これが2回目だ。前回、2022年のヴェネチア・ビエンナーレでは、彫刻家のシモーヌ・リーが黒人女性として初の単独代表に選ばれている。そのときの展示の一部は現在、2022年の委託先だったボストン現代美術館で9月4日まで開催中のリーの個展で見ることができる。

1986年以来個展形式が続いているアメリカ館だが、それ以前に少なくとも1人の先住民アーティストが参加した記録がある。1932年のグループ展に出展したホピ族の画家、フレッド・カボティだ。

アメリカ館の代表という作家人生最高の瞬間を迎えることになるギブソンは、過去10年間にトロント・ビエンナーレやホイットニー・ビエンナーレ、デザートXに出展。現在は、ニューヨーク州北部のバード大学ヘッセル美術館が開催している先住民の美学に光を当てた展覧会、「Indian Theater: Native Performance, Art, and Self-Determination since 1969」に作品が展示されている。さらに来月、ギブソンの編集で現代の先住民アートを総覧した『An Indigenous Present』という本も出版される予定だ。

2024年ヴェネチア・ビエンナーレで既に発表されている各国代表には、イギリスジョン・アコムフラフランスのジュリアン・クルーゼ、オーストラリアのアーチー・ムーアなどがいる。ムーアは、オーストラリア代表として史上2人目となる先住民のアーティストだ。

また、総合ディレクターを務めるブラジル・サンパウロ美術館の芸術監督アドリアーノ・ペドロサは、「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」というテーマで、ディアスポラ(離散民族)や移民に焦点を当てたメイン展示を行うことが予定されている。(翻訳:石井佳子)

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