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ロエベが抜擢した気鋭アーティスト、ジュリアン・グエンとは? その作風に迫る

トップデザイナーと大御所あるいは新進気鋭のアーティストとのコラボレーションも、ファッション・ウィークの見どころのひとつ。これまでもアートとファッションのさまざまなコラボレーションを披露してきたロエベが2023-24年秋冬パリ・メンズコレクションで白羽の矢を立てたのは、気鋭アーティストのジュリアン・グエンだ。

ロエベの2023-24年秋冬パリ・メンズコレクションのショーでは、ジュリアン・グエンによるデジタル作品が会場を彩った。Photo: Courtesy LOEWE

1990年ワシントンD.C.生まれ、現在はロサンゼルスを拠点に活動するベトナム系アメリカ人アーティストのジュリアン・グエンは、美術史や推理小説、私生活を題材にしたユニークな絵画を多く制作している。グエンの作品の多くは彩度が高くシュールだが、その内側には、緊張感のある夢のようなロジックが隠されている。

2017年に制作され、同年のホイットニー・ビエンナーレに出品された《Executive Function》と《Executive Solutions》は、骸骨、天使、ヌードなどをモチーフにボッティチェリなどルネサンス期の巨匠の手法を踏襲した作品だ。しかし、それらから堅苦しさや古臭さは感じられない。というのも、作品の上部にニューヨークタイムズのロゴが描かれ、まるで新聞の一面のようだ。

ロサンゼルスのギャラリー、Freedman Fitzpatrickで2016年に開催されたグエンの初個展「Super-predators」では、エイリアンや歴代の大統領、貴族の亡霊がヒエロニムス・ボス作品のように混在して描かれており、ポップカルチャーと中世絵画をクロスオーバーさせるような試みだった。

今回、ロエベのためにグエンが制作した作品は、ミューズであるニコスをなめし皮に描いた水彩の細密画と、パリのホテルで過ごすニコスを題材にしたデジタルアート2点の計3点だ。

グエンは、ロエベのアーティスティック・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンとの対談の中で、「わたしの作品を観た人々が、自分の人生をそれにどう重ねて解釈するのか、ということに興味があります。このような身近な題材を扱うことで、歴史的、局所的、概念的に考えるよりも、もっと不思議なものを引き出せると思うのです」と語っている。

今回の作品には、エリザベス1世時代に繊細な細密画を描いて人気を博した宮廷画家、ニコラス・ヒリアード(1547頃-1619)のスタイルが採用されていた。アーティストのグエンとデザイナーのアンダーソンは、共にヒリアードへの憧れ、あるいは「執念」があるようだ。

展覧会の招待状に印刷されたグエンの細密画は、ヒリアードが肖像画によく用いたことで知られる、鮮やかなブルーの背景で描かれている。

グエンは、中世絵画に影響を受ける理由について、以下のように語っている。「歴史的な手法の何が素晴らしいかというと、こうした手法が、何世紀にもわたる人々の試行錯誤によって生まれたということ。たゆまぬ実験が、異質な素材と手法を調和させてきた。私にとって伝統は、何かを解明しようとする人々が残した化石のような存在であり、とてもエキサイティングなものなのです」(翻訳:編集部)

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