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再発見されたダリ作品、“ろうのキリスト”評価額は1000万ドル超

長らく失われたと思われていた、ろうで作られたサルバドール・ダリのレリーフ彫刻が、まるでキリストの再臨のようにアートファンのもとに帰ってきた。

サルバドール・ダリと「ロストワックス」 Harte International Galleries

ハワイ・マウイ島のハート・インターナショナル・ギャラリーズが再発見したこの彫刻は、ダリが生きていれば118歳の誕生日にあたる5月11日から同ギャラリーで展示されている。

 「ロストワックス(Lost Wax)」(*1)とギャラリーが呼んでいるこの作品は、米国のコレクターの収集品の中から発見されたという。驚くべきことに、ダリが形を保存するために使っていた、プレキシガラスのケースに入ったままの状態だった。

 *1 ろうを利用した鋳造方法をロストワックス製法と言う。

 この、ろうでできた像は1979年に制作され、ブロンズ、ゴールド、プラチナ、シルバーなどを素材としたレリーフ彫刻《Christ of St. John of the Cross(十字架の聖ヨハネのキリスト)》を作るために使用された。このレリーフのシリーズは、1951年にダリが描いた同名の絵画を立体化したもの。元の絵には、たそがれ時のような空に浮かぶ十字架上のキリストが描かれている。一般に、ろうの保存は難しいため、原型が現存するとは考えられていなかった。

 この作品は実に40年もの間、匿名のコレクターの保管庫に眠っていた。発見したギャラリーの共同経営者、グレンとデボン・ハートがこのコレクターと連絡を取ったのは、アートブックを購入するためだった。コレクションの中に貴重なダリのオリジナル作品があることに気付いた2人は入手を決めた。なお、買い取り金額は明かされていない。

 「ハート・インターナショナル・ギャラリーズは、これまでにもこのレリーフ彫刻をいくつか販売してきたが、原型が今も残っているとは誰も思っていなかった」とグレンとハートはコメントしている。

 同ギャラリーは、ダリの研究者であるニコラ・デシャルヌと協力して、この彫刻の鑑定を行った。デシャルヌは、サルバドール・ダリの秘書を務めたロベール・デシャルヌの息子で、ダリに関する世界有数の研究者だ。2019年には、75年以上にわたって個人コレクションに収められ、存在が知られていなかった1932年作のダリの絵画を鑑定している。図像学の専門家、カルロス・エバリストの協力も得た。

 このレリーフに対する同ギャラリーの評価額は1000〜2000万ドルという、ろうでできた鋳造の原型としては驚異的な額だ。(翻訳:野澤朋代)

 ※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月11日に掲載されました。元記事はこちら

 

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