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今週末に見たいアートイベントTOP5: 日常を描く画家の2年ぶりの個展「森本啓太展」、約90点で初期から現在までを辿る「荒木珠奈展」

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展(東京都美術館)より、《記憶のそこ》のためのドローイング 2023年 作家蔵

1. 高橋知裕「NUZU」(MAHO KUBOTA GALLERY)

《Hide-and-seek》(2023)パネル、麻布、油絵具 154×136.5cm

ポップなイメージの裏に隠された複雑な世界観

ぬいぐるみやプラスチックの人形をメインモチーフに、自身が構築した演劇舞台のような光景を忠実に絵画として描く高橋知裕。作品には子どもの落書きのような描線のドローイングが描き加えられている。それは漫画のセリフのふきだしの形をしていることが多く、玩具の考えていることや心の声を想像させ、密やかなコミュニケーションの世界を想起させる。高橋は、ぬいぐるみをメインモチーフにする理由をこう説明する。「自分の言葉でうまく物事を伝えられなくても、ぬいぐるみを介することでコミュニケーションが成り立つことがある」

高橋にとって、東京での初個展となる本展は、新作絵画10数点を展示する。ポップなイメージが表す「かわいらしさ」だけでは語れない不穏な空気、ディスコミュニケーションの問題など、幾重にも入れ子状になった複雑な世界観が感じられる作品群が並ぶ。

高橋知裕「NUZU」
会期:7月4日(火)〜 8月5日(土)
会場:MAHO KUBOTA GALLERY(東京都渋谷区神宮前2-4-7)
時間:12:00 〜 19:00


2. 近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」(ミヅマアートギャラリー)

《「ニューヨークで考え中」ドローイング One World Trade Center, September 25, 2021》 2023 紙にインク 36.4 x 51.5 cm 撮影:宮島径 ©️KONDOH Akino, Courtesy of Mizuma Art Gallery

人気コミックエッセイの原稿とドローイング。新作アニメーションのイメージスケッチも

アニメーション、漫画、ドローイング、油彩など多岐にわたる作品を国内外で発表する近藤聡乃。本展は、近藤のニューヨークでの日々を綴ったコミックエッセイ『ニューヨークで考え中』(亜紀書房)第4巻の発売に合わせ、同巻収録の漫画原稿とそれに関連したドローイングを中心に展示する。

「タイトルで『考え中』と言っているので、結論を出さなくて良いのがこの連載の気楽なところです。親しい人に近況を報告するような気持ちで、生活しながら、街を歩きながら、また街の片隅に座りながら考えたことを描いてきました」と近藤は回想する。コミックエッセイの連載を通して、漫画の資料になりそうな写真を撮ることが習慣になったという近藤は、今回写真をトレースして線を起こし、そこにキャラクターとしての「自分」を描くという方法でドローイングを制作したという。

そのほか本展では、構想中の新作アニメーション「呼ばれたことのない名前」のイメージスケッチもまとめて紹介。今までの「モノクロ+カラー1、2色」で制作された作品群とは対照的に、色彩あふれるスケッチが並ぶ。

近藤聡乃展「ニューヨークで考え中」
会期:7月5日(水)〜 8月12日(土)
会場:ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F)
時間:12:00 〜 19:00


3. うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展(東京都美術館)

《記憶のそこ》のためのドローイング  2023年 作家蔵 2023年 作家蔵

ちょっと怖くてどこか懐かしい、荒木珠奈の初の回顧展

光と影、昔話、家や舟といった物語を想起させるようなモチーフを用いて、心の底にある懐かしい感覚や感情、記憶を揺さぶりながら、非日常の世界へと誘う作品を発表してきた荒木珠奈。本展は、荒木にとって初となる回顧展。メキシコの先住民と共同制作したマヤ神話に基づく絵本や、さまざまな国のルーツを持つ子どもたちとのワークショップから生まれた作品をはじめ、版画、立体作品など幅広いジャンルの多様な作品を展示。初期から近作までの約90点に加え、「上野の記憶」に着想を得た大型インスタレーションの新作を展開する。

参加型作品や体感型展示もあり、ワークショップを多数開催するほか、8月1日(火)、8月4日(金)には、展覧会に関連したテーマを切り口に、荒木が今一番話したい相手と対談するアーティスト・トークや、展覧会の裏側に関わる専門家に話を聞くプロフェッショナル・トークも。

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展
会期:7月22日(土)〜 10月9日(月・祝)
会場:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
時間:9:30 〜 17:30(金曜は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)


4. Toshiki at kudos (Centraal)

Ceramic Bag Phohography:©️TOSHIKI

世界的デザイナー、八木沢俊樹が陶芸で表現する伝統と革新の融合

M/M(Paris)、JW Anderson、Dis、New Tendency、Spike Art Magazineなどとのコラボレーションを通じて新しい表現を追求してきたデザイナー、「トシキ(Toshiki)」こと八木沢俊樹による、初の陶芸作品の展覧会。

八木沢の作品は、伝統的技術と3Dプリント技術を組み合わせており、どこか懐かしくもあり新しさも感じさせる。本展では「セラミック・バッグ(Ceramic Bag)」シリーズをはじめとする陶芸作品に加え、ランプやプランターなど自由自在に用途が変化する「スタック(Stack)」シリーズなどの新作も披露する。

Toshiki at kudos (Centraal)
会期:7月28日(金)〜 7月30日(日)
会場:kudos (Centraal)(東京都中野区中央2-59-12)
時間:13:00 〜 19:00


5. A Little Closer 森本啓太(KOTARO NUKAGA 六本木)

森本啓太《Plastic Love》2023

「ありふれた日常」の瞬間を描きだし、鑑賞者を主人公にする

レンブラントエドワード・ホッパーを連想させるドラマチックな光の表現を用い、風景や人物を描く森本啓太。2年ぶりの個展となる本展では、森本が自身と同世代の若者たちの、部屋の中や食事、ショッピングなどのプライベートな空間に入り込み、何気ない日常の一コマをリアリティをもって描き出した新作を展示する。

日常のどこかで目にしたことがあるような光景、また実際に経験したことがあるような瞬間は、鑑賞者の「共感」を呼び、鑑賞者自身を絵画の当事者にする。描かれた人は、社会における何者であるかではなく、個人としての自分らしさ、つまり「自由」を獲得している時が描き出されている。何を良しとし、どんな瞬間を美しいとするのかといった判断を他者の手に委ねないこと。これこそが人間らしく生きる上で最も重要なことであり、大きな自由を獲得する手段だということを森本は自身の絵画を通して鑑賞者に提示する。

A Little Closer 森本啓太
会期:7月29日(土)〜 9月16日(土)
会場:KOTARO NUKAGA 六本木(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F)
時間:11:00 〜 18:00

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