Amazonが、同社を敵視する作品を展示した団体への資金援助を打ち切り。リーク文書で発覚
インターネットの小売り大手Amazonは、カリフォルニア州リバーサイドにあるアート施設、チーチ・マリン・センター・フォー・チカーノ・アート&カルチャーへの資金援助を打ち切った。同社のビジネス戦略に批判的なアート作品を展示したことが背景にあるようだ。
倉庫建設に異議を唱える作品展示
Amazonが、チーチ・マリン・センター・フォー・チカーノ・アート&カルチャーへの資金援助を打ち切った。同社の説明によると、Amazonは2022年と2023年の両年、チーチに5000ドル(現在の為替レートで約73万円、以下同)の寄付を行っていたが、「アーティストがその後のインタビューでアマゾンを敵視するような発言をした」ことが理由だという。
問題とされたのは、2023年に開催された展覧会「Life Logistics」で展示された、カリフォルニア大学リバーサイド校で政治学を学ぶ学生、トニ・サンチェスによるスクリーンプリントの三部作。作品には、Amazonの倉庫が炎上する様子が描かれており、ブロック体で「BURN THEM ALL DOWN(すべてを焼き尽くせ)」と書かれていた。
作者のサンチェスは、南カリフォルニアの都市圏、インランド・エンパイア地域を拠点とするプレス・エンタープライズ紙に宛てたEメールで、こう主張している。
「この作品を制作したのは、倉庫建設を検討・承認する立場にある市の行政が、我われの声に耳を傾けないことへの苛立ちからです。倉庫ではなく、地域のためのレジャー施設や公園の建設など、我われが行政に求めている土地活用を検討してもらいたいのです」
Amazonがチーチとの提携を解消するという決定は、カリフォルニア州労働総同盟(AFL-CIO)の最高責任者で元カリフォルニア州議会議員のロレーナ・ゴンザレス・フレッチャーがX(旧ツイッター)で公開したリーク文書で明らかになった。そこには、2024年に向けた同社のビジネス戦略やPR戦略のいくつかがまとめられており、「我われは、私たちのブランドと評判に明らかにポジティブではない影響を与える団体を支援し続けること、また、私たちの利益に対して敵対的な立場をとっている組織に資金を提供することはできません」と書かれている。
これを最初に報じたロサンゼルス・タイムズ紙はこの文書に信憑性があることを独自に確認したが、それについてAmazonの広報担当者は異論を唱えなかった。
しかし、Amazonの広報担当ジェニファー・フラッグは、US版ARTnewsの取材に対して、「ロサンゼルス・タイムズ紙の記事はAmazonの活動に対する明らかな誤報です。我われは、全米のコミュニティで慈善活動をしていることを誇りに思っています」と答えた。
アマゾンの創業者で会長のジェフ・ベゾスは、US版ARTnewsのトップ200コレクターズに毎年名を連ねるアートコレクターであり、記事が掲載された2日後、国内有数のアートフェアであるアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでその姿を目撃されている。
困惑や怒りを起こさせるようなアーティストやキュレーターも支援したい
2022年に開館したチーチは、俳優で、ベゾスと同じくUS版ARTnewsトップ200コレクターズの1人でもあるチーチ・マリンから膨大なチカンクスアート(メキシコ系アメリカ人によるアート作品)の寄贈を受けたリバーサイド美術館が運営している。マリンのチカンクスアートコレクションは、長らく世界最大のものと考えられてきた。
地元住民や観光客の人気を集めているのみならず、評論家からも好意的に評価されているチーチは、初年度に来館者10万人を目指していたが、実際は目標を30%上回ったという。リバーサイド市も設立から10年間、毎年80万ドル(約1億1600万円)をチーチに提供することになっている。それに加え、カリフォルニア州の予算から1070万ドル(約15億5000万円)を調達した市議会は、それをチーチの入る歴史的建造物の改修に充当した。
その当時、マリンはUS版ARTnewsの取材に対し、「リバーサイド市は、次の大きなアートタウンになると思います。そうなるべく計画されています」と、この地域の可能性について語っていた。
リバーサイド美術館のドリュー・オーバージャージ館長は、Amazonからの寄付金額についてはロサンゼルス・タイムズ紙の報道を認めたが、寄付を打ち切ると言う話はリーク文書で初めて知ったとして、ステートメントで次のように説明している。
「どちらの年の寄付も、何らかの展覧会を目的としていたものではありません。また、同社から作品に関する疑問や懸念は伝えられておらず、寄付金の返却を求められてもいません。私たちは、挑戦し、驚きや喜びを与え、時には困惑や怒りを起こさせるようなアーティストやキュレーターを支援したいと考えています。こうした対話を通じてこそ、私たちが共有する経験をよりよく理解することができるのです」
チーチのオープンを前にした2021年、US版ARTnewsの取材に応じた同館のアーティスティックディレクター、マリア・エステル・フェルナンデスはこう語っていた。
「チカンクスアートは、社会正義や公平性の問題に関わる政治運動から生まれたものです。この種のアートに焦点を当てた美術館は、地域に根ざしていなければ成り立ちません。つまり、地域社会のルーツを理解することが重要なのです」(翻訳:編集部、石井佳子)
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