認めたくない真実:アーティストやキュレーターが陥るかもしれない罠

“自分はなんてバカなんだ。海外のアートコレクターからメールが届いたのは1カ月前のこと。私の絵を高く評価していて、奥さんの誕生日プレゼントに1点購入したいという内容だ。家賃の支払いが迫っていたこともあるけれど、正直なところ、私の作品が誰かに気に入られるのは当然という気持ちもあった。何度かやり取りをした後、大きな絵に決まった。相手は代金を小切手で送ってきたが、そこに含まれていた運送費と取り扱い業者費用の数千ドルは、現金で支払うべきものだった。数人の男がトラックで作品を取りに来た。全てちゃんとしているように思えた。ところが数日後、銀行から不渡り小切手の請求があり、私は良い作品と、現金を立て替えて業者に支払った分の金を失ったことに気づいた。なぜこのような手の込んだ詐欺を、立場の弱いアーティストにするのだろう?”

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騙されるのは確かに腹立たしいだろうが、こうした詐欺の被害者はあなたが初めてではないことを知ってほしい。ずる賢く怪しげなヨーロッパ人が、何年も前からインターネットを使って騙されやすいアメリカ人アーティストからお金を巻き上げているのだ。

実際、私たちはインターポール(国際刑事警察機構)と協力して国際的なおとり捜査を行い、スイスのリゾート地グシュタードで、悪辣(あくらつ)な詐欺師を逮捕したことがある。密告を受けて当局が到着したのは、犯人がヘリコプターで逃走したわずか2分後だった。盗まれた作品の一部が戻ってきたことが、騙されたアーティストたちには多少の慰めになったようだが、善意を搾取するような手口への不信感からは解放されなかった。

アーティストは、自分の作品に向けられた関心は本物であると信じたいものだ。それが、教師からの励ましの批評であれ、学芸員のちょっとした好意的なコメントであれ。全てのアートには自己表現の部分があるので、良いフィードバックはいつも達成感をもたらす。こうしたポジティブさや、関心を示されることが、結果的にあなたのガードを下げることにつながっているのかもしれない。アーティストたちは詐欺師の格好の餌食だ。だからこそ、ギャラリーは作品売り上げの50%をアーティストから取れるのだ。

「メール購入」詐欺は、前提が具体的で信憑性があるので、うまい手法として繰り返し行われている。では、騙されないようにするにはどうしたらいいのか? まず、グーグルで検索しても出てこないような相手からの問い合わせには、絶対に返信しないこと。次に、運送費や美術品取扱いの専門業者に料金を支払わなければならない取引には、絶対に関わらないことだ。本物のコレクターや美術関連施設は、こうした費用は自分の側が負うものだと認識している。もし、代わりに支払い手続きをしてくれと言われたら、手を切るときだ。

最後にもう一つ。「イエス」と同じくらい「ノー」と言えるようになれば、あなたのクリエイティブでプロフェッショナルな人生、そしてプライベートの生活も格段に向上するだろう。

“私は数年前にあるよく知られたビエンナーレのキュレーションをしたが、その後ずっと「産後うつ」のような状態だ。この展覧会までは、私はアート界全体から注目を集めていた。しかし最近では、私のインスタグラムの投稿に「いいね!」をしてくれる人は少なくなり、イベントにもあまり招待されなくなった。せっかくプロとして一皮むけ、新しい友人もできたと思ったのに、いまだにインディペンデントキュレーターのまま。さらに辛いのは、私が選んだビエンナーレのアーティストたちが相談に来てくれないこと。何があったのだろうか?”

独立したキュレーターであるということは、人としての孤独の象徴のようなものだ。ビエンナーレのキュレーションは、参加した人々の記憶よりも、あなたの経歴書に長く残る重要な業績。あなたは、見せかけの友人やおべっかに慣れてしまい、実際は彼らがあなたを必要としている以上に、あなた自身が彼らを必要としていることに気づかなかったのだ。

友達の解除をしたり、こっそりミュートしたりせずに、あなたの味方でいてくれた人たちを大切に。それでも足りないないなら、悲しいかな、あなたの空虚な心を埋める方法は、またビエンナーレをキュレーションすることしかない。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年11月9日に掲載されました。元記事はこちら

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