高橋龍太郎(Ryutaro Takahashi)
拠点:日本・東京
職業:精神科医
収集分野:現代アート
「私のライフスタイルの中心にあるのはアートです」。2024年3月、アート・バーゼル香港の開催を前に、高橋龍太郎はこう言った。「以前は赤ワインの収集に凝っていましたが、今の関心事はもっぱらアートです」
精神科医である高橋の3000点に及ぶコレクションは、99パーセントが日本人作家のもので、残りの1パーセントは台湾人アーティスト、ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)の作品だ。中でも大きな意味を持つ作品は、1998年に購入した草間彌生の《Infinity Nets #27》(1997)で、彼の言葉を借りれば、「アートに心を奪われ、深く魅了されるようになったきっかけ」となるものだった。1960年代、草間は公的空間での「ハプニング」や、反戦・反差別といったアクティビスト的メッセージで日本の人々を瞠目させた。しかし、現在のような国際的人気や価格高騰など、草間作品をめぐる熱狂ぶりはまだ先の話だった。高橋はその頃から草間作品を収集し、現在70点ほどを所蔵。その中には《パシフィック・オーシャン》(1959)や「インフィニティネット」シリーズなどの代表作も含まれる。
所蔵作家には、ほかにも数多くの才能あるアーティストたちがいる。村上隆もその1人で、東京都現代美術館に展示されていた《たんたん坊》(2001)が高橋の目を捉えた。緻密さと洗練が絶妙に混じり合ったこの作品について高橋が問い合わせたときには予約済と言われたが、後で確認すると「驚いたことに」まだ売れていなかったので即購入したという。また、高橋のお気に入りにはスケールの大きな作品が多い。たとえば、加藤泉の謎めいた彫刻や水戸部七絵の油彩画、書家の比田井南谷が1964年に手がけた5メートル近い書、そして宮島達男の巨大パブリックアート《Time Waterfall》(2016)などがある。宮島の作品は、彼のシンボルであるデジタルカウンターの数字が高層ビルの壁面を流れ落ちる印象的な光のインスタレーションとして、2016年のアート・バーゼル香港で発表された。
これまで国内外で約25回のコレクション展を開催している高橋はこう語る。「収集作品が500点に満たなかった頃は、自分だけで楽しむという考えでした。しかしコレクションが増えるにつれ、世界と分かち合うべきだと思うようになったのです。このまま人目に触れさせないでおくのは罪深いと」
2024年には東京都現代美術館で、過去最大規模の高橋コレクション展が行われた。こうした展覧会を開く目的は、若いアーティストに刺激を与えることだという。それは確実に実を結んでいるようで、一例として高橋は新進作家の近藤亜樹の名前を挙げた。彼女の作品のいくつかは、現在、高橋コレクションの中でも「重要な位置」を占めている。高橋はこう付け加えた。「30年近く収集を続けている私の人生に、アートは大きな影響を与えました。そして、自分のコレクションが量・質ともに増えていくにつれ、より良い人間になりたいと願うようになったのです。私のコレクションにふさわしく、コレクターの真髄を体現する存在にならなければいけません」