ゴッホ絶筆の地の所有権を自治体が主張。法廷闘争の末、土地所有者が権利を守る
フィンセント・ファン・ゴッホの絶筆《Tree Roots(木の根)》(1890)が描かれた場所とされる、フランス、オヴェール・シュル・オワーズの土地の権利を市と所有者で争う裁判で、フランス人夫婦に所有権が認められた。

フィンセント・ファン・ゴッホが最期に描いた作品《Tree Roots(木の根)》(1890)の舞台の所有権について、土地所有者と自治体で争う裁判が行われ、所有者のフランス人夫婦に権利が認められた。
ゴッホは1890年5月20日にパリ郊外のオヴェール・シュル・オワーズの宿に身を寄せた。そして7月27日、同地の麦畑付近で拳銃を用いて自殺を図り、2日後に死去した。37歳だった。《Tree Roots》は自殺と同じ月に制作された絶筆と言われている。完成されなかったこの作品は、現在アムステルダムのゴッホ美術館に所蔵されている。

ゴッホ好きだったジャン=フランソワ・セルリンジェとエレーヌ・セルリンジェ夫妻は、2013年にオヴェール・シュル・オワーズのドービニー通り48番地にある川沿いの物件を購入した。 当時、夫妻はこの場所で《Tree Roots》が描かれていたとは思ってもいなかった。
その後2020年になって、ファン・ゴッホ研究所の所長であるウーター・ファン・デル・ヴィーンは、同作が描かれたとされる場所を撮影した1900年頃の画像と、作品を比較。その結果、夫妻が所有する敷地内の堤防で《Tree Roots》が描かれたと特定した。アートネットによると夫妻は現在、この場所のツアーを8ユーロ(約1300円)で行っている。
《Tree Roots》が描かれた場所が特定されると、オヴェール・シュル・オワーズのイザベル・メジエール市長は、木の根のある堤防が公道の一部であると主張。市と夫婦は5年にわたる法廷闘争を繰り広げてきた。そして今年の3月18日、ヴェルサイユの控訴裁判所は「フィンセント・ファン・ゴッホが描いた木の根を含む堤防は、公道の付属物には当たらない」と所有者夫婦を支持し、市に夫婦の訴訟費用2000ユーロ(約32万円)の負担まで命じた。
メジエール市長はこの判決について、フェイスブックで不満を表明。「木の根のある堤防は商業的なものではない。オーヴェールの人々のものです」と主張し、最高裁に提訴するとコメントしている。(翻訳:編集部)
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