全米日系人博物館、トランプ政権のDEI廃止に反対の姿勢。「インクルージョンは私たちの信念」
ロサンゼルスにある全米日系人博物館が、ドナルド・トランプ大統領によるDEI(多様性、公正性、包摂性)政策見直しに反対する立場を示している。しかし、政府効率化省による大幅な歳出削減により、同博物館に対する約3億円の資金援助にも黄信号が灯っている。

4月2日、イーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)が、全米人文科学基金(NEH)や博物館・図書館サービス機構(IMLS)などの予算・人員を大幅に削減すると発表。これにより、ロサンゼルスにある全米日系人博物館(JANM)も、前政権時に承認された200万ドル(直近の為替レートで約3億円、以下同)の資金援助が不透明になった。しかし同博物館は、トランプ大統領が進めるDEI(多様性、公正性、包摂性)政策の縮小に反対する立場を取っている。
JANMのビル・フジオカ理事長はロサンゼルス・タイムズ紙の取材に応じ、「助成金の削減は全米の数多くの博物館、特に文化や民族を扱う博物館に影響するでしょう。私たちは既に連邦政府と資金援助に関する契約を結んでいます。しかし、それを返還させられるというのです」と答えている。
バイデン前大統領時代にJANMがNEHから受けた助成金の一例に、「アメリカの歴史と文化のランドマーク」と題されたワークショップ向けの17万5000ドル(約2600万円)がある。このワークショップは、第2次世界大戦中、ロサンゼルスのリトル東京などに居住していた日系人が強制収容所に送られた歴史を知るためのもので、2年前のワークショップ開始以来、31の州から100人以上の教師が2週間のプログラムに参加。ここで強制収容について学んだ内容が、約2万1000人の生徒に伝えられた。
バイデン政権下での助成金は、いったん全額を立て替え、申請によって規定額が払い戻される償還方式を取っているため、2日に発表されたNEHの大リストラが現実のものとなれば、既に支払った費用は戻ってこない。JANMはまた、2日に職員のほとんどが休職扱いとなったIMLSからも、カリフォルニア州を通じて資金援助を受けている。
1月の就任以来、トランプ大統領が次々と打ち出すDEI政策撤廃の指示により、多くの文化施設でDEI基準を後戻りさせる方針転換やウェブサイトの内容修正が行われるなど、さまざまな変化が起きている。しかしフジオカは、JANMは「何もしない」だけでなく、DEIの重要性をより際立たせることでさらに取り組みを強化していくとして、「私たちのコミュニティは多様性に基づくもので、公正性は憲法で保証されています。そして、包摂性(インクルージョン)は私たちの信念です」との道徳的姿勢を示した。
しかし、バイデン政権時代にJANMが承認を受けたNEHの助成金145万ドル(約2億1000万円)は、同博物館で使用できなくなる可能性がある。また、既に立て替えた52万2000ドル(約7700万円)の申請が行われているが、まだ償還されていない。この助成金には、歴史保存に特化した「アメリカの宝を守ろう」プログラムの75万ドル(約1億1000万円)が含まれており、16万点の所蔵品を保管する同博物館では、この資金を冷暖房や換気、湿度などをコントロールするHVACシステムの改善に使用する予定だったという。(翻訳:石井佳子)
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