フェルメール最後の作品は《ヴァージナルに座る若い女性》だった? 当時の流行を考慮し加筆の可能性

ヨハネス・フェルメール(1632-1675)の37点ある真作の中で唯一の個人所有《ヴァージナルに座る若い女性》が保存修復と調査を行ったところ、絶筆である可能性が高いことが判明した。

フェルメール《ヴァージナルに座る若い女性》Photo: Wikimedia Commons

ヨハネス・フェルメール《ヴァージナルに座る若い女性》の保存修復作業と調査を行ったところ、同作がフェルメールの絶筆かもしれないことが分かった。

アート・ニュースペーパーの報道によると《ヴァージナルに座る若い女性》は、1670年から72年にかけて描かれたとされており、アメリカの億万長者トーマス・カプランが所有している。同作は1940年以来その帰属が疑問視されていたが、2004年のサザビーズでのオークションの前に徹底的に調査され、それ以来、専門家の間でも真作と受け入れられるようになった。

2004年に行われたサザビーズでのオークションでは、カプランも参加していた。だが価格が高騰し、1600万ポンド(現在の為替で約29億円)でラスベガスのカジノ経営者スティーブ・ウィンに落札されてしまう。ウィンに競り負けた後、カプランはディーラーの友人に「いつかあの絵を自分のものにするんだ」と言った。 それから4年後、ウィンがフェルメールを売却する必要に迫られたとき、カプランと妻のダフネは、レンブラントの《翳りのある瞳の自画像》(1634)とともに、《ヴァージナルに座る若い女性》を手に入れることに成功した。

2024年、カプランは保存修復家のデイヴィッド・ブル(2024年12月28日に死去)にフェルメールの修復と調査を依頼した。すると絵の具の層の間に長石の粒子があることが明らかになった。 これらの鉱物の粒子は、フェルメールが拠点にしていたオランダの名産品デルフト焼きの陶磁器が生産された際に出たもので、空気中に舞っていた。それがデルフト中心部にあったアトリエに入り込み、下絵を仕上げた絵画の表面に落ちたと考えられる。

また、調査に加わったワシントンDCのナショナル・ギャラリーの元学芸員で、現在はカプランのシニア・コレクション・アドバイザーを務めるアーサー・ウィーロックは、フェルメールが死去した同じ年に、同作の女性のコルセットの上に黄色いショールが加えられたと考えている。それは、ショールのデザインがウィーロックがフェルメールの晩年の作品と判断した、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されている《乙女座の若い女》と同じだからだ。ウィーロックは、このショールは1672年に起こったフランスによるオランダ侵攻後に流行したデザインであり、ファッションの変化を反映する必要があったためだと説明する。

気になるのは、フェルメールが自らの意思でショールを加えたのか、それとも買い手からの要求に従って付け加えたのかということだ。 元の持ち主が誰であったかは不明だが、フェルメールの主要なパトロンであったデルフト在住のピーテル・ファン・ルイヴェンとその妻マリア・デ・クヌイトであった可能性が高い。

カプランは絵画の保存処理にあたり、ブルに「介入を控えめにする」よう厳命したという。その結果、絵画のニュアンスや陰影、色調の構成が全て浮かび上がってきた。 白いサテンのドレスのひだがより明確になり、かつて女性の唇と眉に施された修復を取り除くと、より親しみやすい表情になった。

そして、2004年のサザビーズのオークション以来、フランス製の彫刻と金箔が施された豪華な額に入っていたものを17世紀後半の黒檀のオランダ製額縁に入れた。 よりシンプルな額縁の方が邪魔にならず、フェルメールの構図がより強調されるためだ。

現在、同作はアムステルダムのH'ART美術館で開催中の「From Rembrandt to Vermeer」で展示されている(8月24日まで)。同展ではカプランと妻ダフネのコレクション「ライデン・コレクション」から75作品が出品される。その中には、野生動物保護基金に寄付する目的で来年オークションに出品されるレンブラントのドローイング《休息する若いライオン》(1638-42)も並ぶ。同作は、オークションでの最も高価な紙作品になることが期待されている。(翻訳:編集部)

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