フェルメール《真珠の耳飾りの少女》を見つめてしまうのはなぜ? 脳科学者たちが理由を解明
ヨハネス・フェルメール(1632-1675)の《真珠の耳飾りの少女》(1665頃)を見たとたん、目が離せなくなる──その理由について、オランダのマウリッツハイス美術館と脳科学者たちが調査した。
オランダのマウリッツハイス美術館に所蔵されているヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》(1665頃)を見るために、世界中から毎年何十万人もの観光客が訪れている。2012年に東京都美術館で開催された「マウリッツハイス美術館展」で来日した時には、この作品のための長蛇の列が連日生まれた。44.5×39センチと決して大きくはないこの作品にどのような魅力の秘密があるのか、同館は脳科学者のエリック・シェルダーとニューロファクター社の神経科学者マルティン・デン・オッター、調査会社のニューレンシックス社などに依頼して調査を行った。
《真珠の耳飾りの少女》の比較対象として、レンブラントの《自画像》(1669)や《解剖学講義》(1632)、フェルメールの《デルフトの眺望》(1660頃)、ヘンドリク・ファン・ホントホルストの《ヴァイオリン弾き》(1626)など、同館に所蔵される5点の傑作が用意された。
今回は、20人の被験者に調査機器を身に着けて作品鑑賞してもらい、眼球運動追跡技術、脳波(EEG)、MRIスキャンを用いた神経科学調査を行った。すると、《真珠の耳飾りの少女》を鑑賞する被験者は、圧倒的に脳の楔前(けつぜん)部の活動が活発になった。楔前部はおもに空間に対する位置関係を認識するほか、感情的、認知的な情報を統合し、主観的幸福を感じやすくする機能を持つという。
そして彼らは、最初に少女の目と口に視線を奪われ、次に真珠の耳飾り、その後再び目と口を見るというループを起こす傾向にあることが分かった。研究者たちは、目、口、真珠の3点が三角形を形成していることを突き止め、これが「持続的な注意のループ」を生み出し、調査対象となった他のどの絵画よりも鑑賞者の注意を長く引きつけていたと結論づけた。
研究者はまた、ガラス張りの美術館用エレベーターに被験者を乗せ、5枚の絵画を鑑賞させた時の集中度を測定。途中でエレベーターが急に停止してしまうアクシデントを用意した。すると、アクシデントに対する「注意」のスコアが100点満点中44点のところ、《真珠の耳飾りの少女》はさらに高い48点を記録した。この結果について研究者は、「エレベーターで急に停止したらショックを受けますよね。そして、当然ですが注意を引きます。死んでしまうかもしれないし、1週間何も食べずに過ごすことになるかもしれないのですから。しかし、それでも《真珠の耳飾りの少女》は潜在的な危険よりも脳の注意を多く引きました。望むと望まないとにかかわらず、より長く見つめてしまうのです」と説明した。
そのほかの興味深い発見としては、被験者に調査対象の5つの絵画作品と、ポスターなどのそれらの複製品の両方を見せた場合、本物の方が10倍も強く感情反応が起こった。オランダ美術館協会のディレクター、ベラ・カラッソは声明で、「私たちは、多くのコピーに直面する時代に生きています。そのため、本物の芸術や物品は重要ではなくなっていると思われるかもしれませんが、実際にはその逆で、本物であることがより重要になっているのです。そのことが今回科学的に実証されたことは素晴らしいことです」と話した。