ペルーの遺跡で幻覚剤吸引器を発見。約2500年前に封印された小部屋は支配層が儀式に使用か

ペルー遺跡で、紀元前500年頃に封印された小部屋から幻覚剤の吸引器が複数見つかった。残留物の分析でニコチンや向精神物質が検出され、考古学研究者は少人数の支配層が儀式に用いていたと考えている。

ペルーのアンカシュ県にあるチャビン・デ・ワンタル遺跡。紀元前200年頃まで栄えたチャビン文化のものとされ、石造りの大神殿には地下回廊が張り巡らされている。Photo: Getty Images/iStockphoto

ペルーのプレインカ(インカ帝国以前)の遺跡で、支配層が幻覚剤を用いた儀式を行っていたことを裏付ける遺物が発見された。調査を行った考古学研究者チームが、米国科学アカデミーが発行する学術誌PNASに、5月5日付で研究結果を発表している。

これらの遺物は、ペルーの中央高地にあるチャビン・デ・ワンタル遺跡で紀元前500年頃に封印された部屋で見つかった。骨と貝殻を削って作られた23の出土品の中には、ハヤブサらしき鳥の翼の骨で作られた「筒状の吸引器」もあり、アヤワスカと呼ばれる植物に含まれる幻覚物質のDMT(ジメチルトリプタミン)やニコチンの吸引に使われた痕跡があるという。

石造りの大神殿で知られるチャビン遺跡では、以前から向精神作用のある物質が用いられていたと推測されていたが、今回、化学的・微細植物学的な分析が行われたことで、儀式で使用された薬物が初めて特定された。分析結果によると、6つの器具の残留物にタバコやヴィルカ(アナデナンテラ・コルブリナ)という植物由来の有機化合物が含まれていた。DMTを含む植物の種子と葉を乾燥させ、焙煎し、粉状にすりつぶして鼻から吸引したと研究者たちは考えている。

フロリダ大学の考古学者ダニエル・コントレラスは、科学ニュースサイトのライブサイエンスの取材にこう答えた。

「中を削って空洞にした骨は、鼻から薬物を吸入する器具として使われたと見られます。映画で大金持ちがコカインを吸引するために紙幣を丸める場面が出てきますが、それと同じようなものです」

また、吸引器が見つかったのが少人数しか入れない小さな部屋だったことから、幻覚剤の使用は一握りの人々に限られていたのではないかと研究者たちは指摘している。こうした習慣が「社会階層を固定化し」、石造りの遺跡を建設した労働者と支配層を区別する儀式として利用されていたとして、コントレラスはこう説明する。

「不平等を正当化し、社会に根付かせる方法の1つはイデオロギーです。神秘的な儀式を行うことで、大神殿の建設が良いアイデアだと人々に思わせたのでしょう」

研究チームはまた、今回得られた知見によって、儀式化された薬物使用がアンデス地域の文明における社会の変遷──ゆるやかに組織化された社会から、ワリ文化、ティワナク文化、インカ帝国などの階層化された社会まで──にどう関わったかが明らかになる可能性があるとしている。(翻訳:石井佳子)

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