「ナパーム弾の少女」撮影者をめぐり論争。ベトナム戦争を象徴する写真のクレジット表記が一時停止に
5月16日、世界報道写真財団はベトナム反戦運動のシンボルとなった衝撃的な写真の撮影者に疑義があるとして、クレジット表記を一時停止すると発表した。従来この写真の撮影者は、AP通信のカメラマン、ニック・ウットとされてきた。

ベトナム戦争中に撮影され、世界に大きなインパクトを与えた《The Terror of War(戦争の恐怖)》は、「ナパーム弾の少女」として広く知られている。1972年6月8日に撮影されたこの報道写真は、泣き叫びつつアメリカ軍の攻撃から逃げようとする子どもたちの悲惨な場面を捉えたものだ。特に強い印象を与えるのが中央の裸の少女、当時9歳のキム・フックで、ナパーム弾による大やけどを負った。
この写真の撮影者はこれまで、AP通信のカメラマン、ニック・ウットとされてきた。しかし、今年1月のサンダンス映画祭で上映されたドキュメンタリー『THE STRINGER(契約特派員)』の中で、VII財団が撮影者に関する疑義を指摘。法医学アナリストとメディアの専門家による独自調査の結果、契約特派員のグエン・タン・ンゲ(Nguyễn Thành Nghệ)あるいはフイン・コン・フック(Huỳnh Công Phúc)が撮影した可能性が高いとしている。
AP通信と世界報道写真財団もそれぞれ独自の調査を行ったが、撮影者は特定されていない。これを受け、世界報道写真財団は撮影者名のクレジット表記を一時停止。一方、この件に関するニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、AP通信のバイスプレジデントでグローバルニュース制作の責任者であるダール・マクラッデンは次のように答えている。
「我われの報告書で詳しく説明されているように、ニック・ウットの名前をクレジットから外すのに十分な、確たる証拠も事実もありません。そして、半世紀以上前のほんの数分間に、路上で何が起きたかを正確に知るのも不可能です」
片や、真の撮影者ではないかと名前を挙げられたグエン・タン・ンゲは、「先入観を持たずにフィルムと法医学的報告書を見て、この話のどこに真実があるのか自ら判断してほしい」と語っている。
クレジット表記の停止は、真の撮影者が確定するまで(確定できたらの話だが)続くと思われる。しかし、戦禍の悲惨さを伝えるこの写真の価値は変わらず、1973年に「フォト・オブ・ザ・イヤー」を受賞した事績も残る。
なお、写真の少女、キム・フックは一命を取り留め、現在カナダ市民として戦争や暴力の犠牲になった子どもたちの支援を行っている。(翻訳:石井佳子)
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