青木邦眞がロエベ財団クラフトプライズ2025大賞を受賞! リスクを恐れない「粘り強さと献身」も評価
ロエベ財団がクラフトプライズ2025の受賞者を発表し、日本人作家の青木邦眞が大賞を受賞した。

ロエベ財団がクラフトプライズ 2025の受賞者を発表した。133の国と地域からなる4600点以上の応募から、ファイナリストの発表を経て大賞に選ばれたのは、日本人作家の青木邦眞(1963年生まれ)の《Realm of Living Things 19》(2024年)。パトリシア・ウルキオラ、オリヴィエ・ガベ、ワン・シュウ、マグダレン・オドゥンドら、デザインや建築分野の第一線で活躍する12名を審査員に迎え、技術的完成度、技能、革新性、芸術的ビジョンを基準に評価した。
青木の歪像的なテラコッタ彫刻は、粘土に力を加えたときの歪みやひび割れの様子を探求した作品。重力、時間、圧力を用いた革新的な造形技術で粘土の層を幾重にも積み重ね、圧縮し、窯で焼成した後、土と鉛筆で表面に装飾を施して仕上げられている。
審査員たちは、青木の伝統的な紐作りの技法を率直な方法で用いている点と、素材が生のままの姿で表現されている点を高く評価。テラコッタの紐が収縮することで生まれる表面の緻密なディテールは小宇宙を形成しており、その焼成過程はリスクをはらむ。そうした制作工程には、作家の粘り強さと献身を見てとることができる。
また、特別賞にはニフェミ・マーカス=ベロ(1988年生まれ、ナイジェリア)による《TM Bench with Bowl》とスタジオ スマクシ・シン(インド)による《Monument》(2024年)の2作品が選ばれた。
ニフェミ・マーカス=ベロの《TM Bench with Bowl》は、自動車産業から回収されたアルミニウムを用いて制作された彫刻作品で、グローバリゼーション、貿易、権力の力学といったテーマを探求している。素材そのもののシンプルさと幾何学的なフォルムが組み合わさることで、消費主義について静かでありながら力強いメッセージを生み出している点が認められた。
スタジオ スマクシ・シンの《Monument》(2024年)は、デリーにある12世紀の列柱を等身大で再構築した作品。銅のザリ糸を水溶性の布に通し、その後布を溶かして糸だけを残すという手法で制作されている。記念碑の類は時間の経過とともに物理的に劣化するが、それが有する文化的な歴史が忘れ去られることはない──審査員は、そうしたことを雄弁に物語る本作の力強い存在感と繊細な構造との詩的なコントラストに注目したという。
今年の受賞作に共通するのは、口承や儀式、世代を超えて受け継がれてきた知識など、豊かな遺産に敬意を表した作品であるということ。また、例えばバスケット作りの技法を粘土に、機織りの技法を金属に用いるなど、伝統的なクラフト技法を従来の素材から新たな素材へ転用することでモチーフに新たな解釈を与え、再構築した革新的な作品が選出されている。
ロエベ財団プレジデントのシーラ・ロエベは、受賞者発表に際して以下のようにコメントしている。
「第8回目となるこの賞を祝うにあたり、展示されている作品の驚くべき創意の幅広さ、 美しさ、そして技術の高さに心を打たれています。毎年、クラフトが持つ驚きや革新、 進化し続ける力を目の当たりにするたびに、魔法のようなものを感じます。クラフトを 活性化しつづけるというこの賞の役割を、私は非常に誇りに思っています」
毎年開催されている本賞は、1846年に職人工房として創始されたロエベの起源にもとづき2016年に設立され、現代のクラフトマンシップの卓越性、芸術性、革新性を称えている。