25年目のサーペンタイン・パビリオン開幕。「扉のない、誰にでも開かれた」対話の場をマリーナ・タバスムが設計
今年で25年目を迎えるロンドンの夏の風物詩、サーペンタイン・パビリオンがケンジントン・ガーデンで6月6日に開幕。過去には複数の日本人建築家も携わったこのパビリオン、2025年はバングラデシュのマリーナ・タバスムが設計を行い、アーチ型の4つの部分からなる木造のカプセル型建築がお目見えした。

2025年のサーペンタイン・パビリオンが6月6日にオープン。10月26までの期間、無料で一般公開される。このパビリオンは、毎年、著名な建築家やアーティストが選ばれて設計を行い、ロンドンのケンジントン・ガーデンに設置される。
2000年、ケンジントン・ガーデンにある美術館、サーペンタイン・ギャラリーが同館の30周年を祝うパーティの特設会場をザハ・ハディドに依頼したのが始まりで、以降、毎夏の恒例となり、ヘルツォーク&ド・ムーロン(アイ・ウェイウェイとの共作)、フランク・ゲーリー、オラファー・エリアソン、シアスター・ゲイツなどが設計に携わった。日本人ではこれまで、伊東豊雄(セシル・バルモンドとの共作)、SANAA、藤本壮介、石上純也が選ばれている。
今年のパビリオン設計はバングラデシュ出身の建築家、マリーナ・タバスムによるもので、「A Capsule in Time(時のカプセル)」と名付けられた。その名の通り、南北に長く伸びた建物はハーフカプセル型(アーチ状)の4つの部分から構成されている。通常の建物にあるような入り口はなく、見学者は4つに分かれた構造物の合間から中に入ることになる。
そのうち1つは可動式になっているが、「動く」パビリオンは初の試み。中央にはサーペンタイン・サウスの鐘楼と一直線に並ぶ中庭があり、そこに若いイチョウの木が植えられている。盛夏から秋に向かって葉の色を黄色く変化させていくイチョウは、10月の会期終了後、公園内に再植樹される。
カプセル内は半透明のポリカーボネートパネルを通して差し込む光に溢れ、構造物の合間からは空を見上げることができる。タバスムによると、「建物の隙間から公園が流れ込むようにしたかった」という。彼女が設計にあたって着目したのは、南アジアで屋外の祭礼などに使われる可動式のテント状構造物「シャミアナ」だ。その開放性によって、パビリオンに集う人々が語り合い、さまざまなイベントを楽しむ場となることが意図されている。
パビリオンを主催するサーペンタイン・ギャラリーのアートディレクター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが「扉のない建築で、自由で誰にでも開かれている場」と表現するパビリオンについて、タバスムはこう語っている。
「サーペンタイン・パビリオンは、多様な背景、年齢、文化を持つ人々がひとつ屋根の下に集まり、行動を呼びかけ、寛容と尊敬の境界を広げるための対話を促進する場を提供します」
バングラデシュ出身の建築家で教育者でもあるタバスムは、2005年にダッカを拠点とするマリーナ・タバスム・アーキテクツを設立。社会経済的課題や環境問題に向き合い、それぞれの土地の気候構風土や歴史、文化に根ざした建築を追求している。その一例が「Khudi Bari」(クディ バリ)と呼ばれるモジュール建築。これは、洪水が頻発する地域の住民のために開発された低コストの住居で、解体や輸送・再組み立てが容易な構造が特徴だ。
タバスムは、イスラム文化圏の優れた現代建築や開発プロジェクトを表彰するアガ・カーン建築賞を2016年に受賞。2024年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。