ノンフィクションライターが立役者! 美術館で盗まれた2点の絵画が40年振りに返還
40年前にニューメキシコ大学のハーウッド美術館で盗まれた2点の絵画が、ノンフィクションライターの情報提供とFBIの捜査により40年振りに戻ってきた。

ニューメキシコ大学のハーウッド美術館(ニューメキシコ州タオス)で、1985年に盗まれた2点の絵画がノンフィクションライターの情報提供とFBIのアルバカーキ支局の捜査により40年振りに取り戻された。
盗まれた絵画は、タオス芸術家協会の創設メンバーでもあるビクター・ヒギンズの油彩画《アスペン》(1932頃)と、同じくタオスを拠点に活躍したジョセフ・ヘンリー・シャープの肖像画《オクラホマ・チェロキー(別名:正装のインディアンの少年)》(1915頃)。FBIの発表によると、当時美術館は図書館の2階に付属していたという。
ニューメキシコ大学によると、事態が動いたのは、2023年後半にロサンゼルスを拠点に活動するノンフィクションライターのルー・シャクターがハーウッド美術館のエグゼクティブ・ディレクター、ジュニパー・レヘリッシーにかけた1本の電話だった。シャクターは2点の絵画の盗難と、アリゾナ大学美術館から盗まれ、32年後の2017年に見つかったウィレム・デ・クーニングの《女性-オーカー》(1954–55)を結びつける「確かな証拠」を発見したという。ウィレム・デ・クーニング作品を盗んだニューメキシコ州クリフのリタ・オルターとジェリー・オルター夫妻を取り上げた2022年公開のドキュメンタリー映画『The Thief Collector』で夫妻の居間を映した写真が登場し、そこにヒギンズとシャープの盗まれた絵画が写っていたというのだ。
さらにシャクターが調べたところ、2点の絵画は2018年にアリゾナ州のスコッツデール・オークション・ハウスに出品され、ヒギンズの《アスペン》は9万3600ドル(現在の為替で約1350万円)、シャープの《オクラホマ・チェロキー》は5万2650ドル(同・760万円)で売却されていた。盗品であることを隠すためか、スコッツデールがオークションの際に作ったカタログには《アスペン》は《秋の風景》、《オクラホマ・チェロキー》は《戦羽根飾りをつけたインディアン》と改題されていた。

シャクターの電話を受けて、レヘリッシーは盗難品回収チームを組織して追加証拠の収集に当たった。彼らは国際美術研究財団(IFAR)とアメリカ美術商協会(ADAA)を含む、国内外の盗難美術品リストに掲載された盗難に関する数十の文書や通知を集めて、2024年3月25日にFBI特別捜査官スーザン・ガーストに提出。1994年に美術館から文化財を盗むことを連邦犯罪とする主要美術品盗難法(合衆国法典第18編第668条)が成立する9年前に発生した事件ではあるが、FBIは翌月には2州にわたるこの事件の捜査を開始した。
2点の絵画はFBIによって5月12日に発見・回収された。その後ハーウッド美術館に返還され、6月6日の記者発表で公開された。レヘリッシーはその際に次のように話った。
「ビクター・ヒギンズとジョセフ・ヘンリー・シャープのこれらの作品をハーウッドに再び迎えることは喜びです。そして深い安堵でもあります。この帰還は、我々のスタッフ、理事会、メンバーだけでなく、タオスの芸術・文化コミュニティ全体にとって大きな意味を持ちます。美術館で、皆で絵画の帰還を祝うのが待ち遠しいです」
ハーウッド美術館は現在、「タオスの宝の帰還」と題した展覧会で、《アスペン》と《オクラホマ・チェロキー(別名:正装のインディアンの少年)》を、同館所蔵のほかのヒギンズとシャープ作品とともに展示している。(翻訳:編集部)
from ARTnews