痛烈な批判的思考で「アートと金融」のリアルに切り込むモーラ・ブリュワー【New Talent 2025】
US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、マネーロンダリングやレバレッジを利かせた取引など、金融の世界とアートの関わりをビデオ作品で探求するモーラ・ブリュワーを紹介する。

アーティストとして、研究者として、私は芸術の意義は何かを考えることに、そして友人や同僚との議論に多くの時間を費やしてきた。しかし、そうした議論にありがちな「アートとは美や文化の可視性に関わるものだ」などという主張は、モーラ・ブリュワーの仕事の核となっている圧倒的な事実を前にすると、空虚にしか響かない。それは、「アートとはおそらく何よりもマネーロンダリングの道具だ」ということだ。
ロサンゼルスを拠点とするブリュワーの中心的な活動はビデオ制作で、公文書やファウンドフッテージ(他人が制作した既存の映像)、テキストメッセージ、ドローイング、アニメーションなどを素材にエッセイ的な作品を生み出している。マネーロンダリングというテーマに取り組み始めたのは2018年、一般にはあまり知られていないジェス・ボンド監督の映画に興味を持ったことがきっかけだった。以前はジェシカ・マナフォートの名で活動していたボンド監督の父は、ドナルド・トランプの元選対本部長ポール・マナフォートで、2019年にマネーロンダリングで有罪判決を受けたものの2020年にトランプ大統領から恩赦を与えられている。
ブリュワーのパフォーマンス・ビデオ作品《Private Client Services(プライベート・クライアント・サービス)》(2021)は、犯罪行為から得た利益の追跡を困難にしたり、合法的に得たように見せかけたりするマネーロンダリングの仕組みを示しながら、アート作品を手に入れることで自ら資金洗浄を試みる様子を捉えている。そしてこの作品が、昨年人気を集めたロサンゼルスのカナリー・テストでの個展で初公開した《Offshore(オフショア)》(2024)へとつながる。
グローバル金融の世界を理解したいと考えるアーティストのための「ハウツー」ガイドになっている《Offshore》は、アート価格と世界的な所得の不平等との関連性、特に労働者としてのアーティストに影響を与える要因について考えさせると同時に、痛烈かつ辛辣な批判が込められたビデオ作品だ。
その中で彼女は、1万8857社もの法人が(登記上)入居するケイマン諸島のオフィスビル、アグランド・ハウスや、総額何千億円もの美術品が収められた保税倉庫、ジュネーブ・フリーポートなど、さまざまな場所を訪ねる。それぞれの土地でシュノーケリングをし、チーズフォンデュを食べ、そして「自分の痕跡を隠すために国際的な企業組織を立ち上げる方法を学んだ」と、彼女はスタジオを訪れた私に説明してくれた。

ブリュワーは現在、《Leverage(レバレッジ)》と題したビデオプロジェクトに取り組み、債務者と債権者、そして返済不能な借金をめぐる様々な力学を探求している。最近、ロサンゼルスのタイムシェア・ギャラリーで公開されたこのビデオ作品の第1章は、アート作品を担保にした融資で知られる著名な投資家でアートコレクター、さらにはニューヨーク近代美術館(MoMA)の理事でもあるダニエル・サンドハイムを追っている。
ビデオの中でサンドハイムは、「自分のアートコレクションを融資の担保に用いてアートを買い、そのアート作品がまた融資の担保となり、さらにアートを買う」という行為を続けていく。作品のリサーチの一環としてブリュワーは3年間にわたり、フルタイムで調査会社の仕事をしてきた。そして、そこで得られた専門知識にユーモアを織り交ぜて金融取引の不条理さを浮き彫りにし、アーティストたちの生活に与える影響にも光を当てている。
2025年1月にロサンゼルスを襲った大火事で、ブリュワーはイートン地区の自宅アパートと持ち物のほとんどを失った。彼女はこの突然の絶望的な喪失体験で、お金とアートがともに物理的なモノとはかけ離れた存在になったと感じている。彼女が言うように、アートも金銭も「非物質化された社会の構成概念」だとしたら、高度に物質的な日常生活に依存し続ける私たちは、いったいどこへ向かうのだろうか。(翻訳:清水玲奈)
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