ARTnewsJAPAN

アフリカで新世代のNFTアートが人気急上昇中 注目のデジタルアーティスト10人

ビッグデータ、AI、ブロックチェーン、そしてIoT(インターネットと通信するモノ)が、世界中でアートの未来を形成しつつある。これまでデジタルアートといえば欧米中心のブームだったが、デジタル化の進展でアフリカのデジタルアーティストへの関心が急速に高まっている。

ヤトレダ《Strong Hair(強い髪)》(2022) Photo: Courtesy the artist

新世代のアフリカの作家たちは、これまでにない視点のアートを切り拓く革新者と言えるだろう。彼らはデジタル技術をカンバス代わりに、数々の作品を制作している。そのテーマは、社会経済、政治的現実、民族の記憶から、アフリカの人々やアフリカにルーツを持つ移民の多様な体験まで幅広い。NFTを活用するデジタルアーティストの中から、特に注目される10人をピックアップして紹介しよう。


オシナチ(Osinachi)

オシナチ《Choose the Man You Will Become II(なりたい自分を選ぶII)》(2022) Photo: Courtesy the artist

ナイジェリア在住のオシナチは、アフリカ屈指のテックアーティストだ。彼はマイクロソフトのワードを用いて、男らしさ、同性愛嫌悪、性別による役割といった問題をテーマに、カラフルな具象的ポートレートを制作している。2017年にNFTアートシーンにデビューし、18年には分散型テクノロジーをテーマにしたイベント「イーサリアム・サミット・ニューヨーク」で、ナイジェリア人アーティストとして初めて作品を披露した。

2020年にはチューリッヒのケイト・バッセ・ギャラリーで、初の個展「Existence as Protest(抗議としての存在)」を開催。そこで発表された作品は、カラフルで幾何学的な抽象画で人間と周囲の環境の関係を問うものだった。その後、国際的オークションやアートフェアでも好評を博し、クリスティーズやアート・バーゼル、1-54コンテンポラリー・アフリカン・アートフェアなどに出品された。現在、オシナチの作品はスーパーレア(SuperRare)、オープンシー(OpenSea)、メーカーズプレイス(MakersPlace)などのNFTプラットフォームで流通している。


ジョー・バラカ(Joe Baraka)


ジョー・バラカ作のGoogle Doodle(グーグルドゥードゥル)。オコス・オコンボ教授生誕71周年を記念したもの Photo: Courtesy Google

ケニアを拠点に活動するジョー・バラカは、またの名をジョー・インプレッションズ(Joe Impressions)という。その作品は、シャープな線、形、色で構成されたデジタルアートで、アドビ社のイラストレーターやフォトショップを用いて、さまざまなストーリーを表現してきた。最近の作品では、ナイル諸語の研究やケニアに手話を導入したことで知られる言語学者、オコス・オコンボ教授をモチーフに取り上げている。2021年には、グーグルがジョー・インプレッションズとしての彼にGoogle Doodle(グーグルドゥードゥル)の制作を依頼。ケニアのユーザーに表示されるトップページのためにオコンボ教授を描いたビジュアルを制作している。


ファトゥワニ・ムケリ(Fhatuwani Mukheli)


ファトゥワニ・ムケリ《Looking At You With My Beautiful Eye #3(私の美しい目であなたを見ている#3)》(2022) Photo: Courtesy the artist

南アフリカのヨハネスブルグを拠点とするファトゥワニ・ムケリは、ソウェト地区(*1)で過ごした幼少期を原点とした写真、絵画、映画を制作。南アフリカの黒人の描かれ方にポジティブな変化を起こしてきた。彼は、まずリアルの世界でカンバスに絵を描いてからNFT化し、メタバースで鑑賞したり交換したりできるようにする。ムケリいわく、「バーチャルな世界で土地を買って不動産を所有し、アートを壁に飾ることができる」のだ。

彼はまた、ソウェト出身のアーティストコレクティブ(集団)で、企業向けのクリエイティブ・エージェンシーとしても活動するアイ・シー・ア・ディファレント・ユー(I See a Different You)の共同設立者で、現在、同団体のディレクターを務めている。


*1  ヨハネスブルクの一地区。南アフリカのアパルトヘイト政策下で、同国最大の黒人居住区があった。1976年に起きたソウェト蜂起の記念碑やネルソン・マンデラ国立博物館などがある。


アンソニー・アゼクウォ(Anthony Azekwoh)


アンソニー・アゼクウォ《The Red Man(赤い男)》(2020) Photo: Courtesy the artist

独学でアーティストになったアンソニー・アゼクウォは、フォトショップを用い、カンバスに描いた絵をミラーリングして画像をデジタル加工する。ナイジェリアを拠点に活動する彼の作品は、古代史と現代の両方から得たインスピレーションをベースにしたもので、遠く離れた2つの時間軸が同時進行しているようにも感じられる。

代表的な作品には、アデクンレ・ゴールドやマセーゴといったアフリカの有名ミュージシャンのために制作した斬新なアルバムデザインがある。赤い服に赤い帽子で輝く金のネックレスを身につけ、たばこの煙をくゆらせる男を描いたNFT作品《The Red Man(赤い男)》(2020)を発表して以来、がぜん注目度がアップした。なお、2017年にはナイジェリアのアウェレ・クリエイティブ・トラスト賞を受賞している。


アーメッド・パーテイ(Ahmed Partey)


アーメド・パーテイ《Pupulampo(ププランポ)》(2021) Photo: Courtesy the artist

ガーナの代表的なデジタルアーティスト、アーメド・パーテイは、西アフリカの装飾品、仮面、彫像、文様などに見られるシンボルを発想の源に作品を制作。アフリカ伝統のシンボルに宿る神聖な力を、現代によみがえらせることを目指しているという。アフリカの人々を中心に据えた作品のルーツは、アフリカ文化固有の価値観、彼の言葉によれば「アフリカ古来のスピリチュアリズム」にある。最近では、首都アクラで行われるガーナ最大級のイベント、チャレ・ウォテ・ストリート・アート・フェスティバルでも作品を発表した。


リンダ・ドゥニア(Linda Dounia)


リンダ・ドゥニアの作品 (Photo: Courtesy the artist)

セネガルの首都ダカールを拠点に、デザイナー、キュレーター、アーティストとして活動するリンダ・ドゥニアは、アナログ画像生成ツールを駆使して、権力構造に挑むデジタル作品を制作している。彼女は、自分のアクリル画のテクニックを学習させたAIモデルで制作したアニメーション作品を、人間と機械の協働作業から生まれたものだと説明する。「AIモデルに私の作品をフィードして学習させると、モデルは学習過程の結果を生成します。それを私がキュレーションして、アニメーション技術でストーリーにつなぎ合わせるんです」。

彼女の作品は、ブロックチェーンのプラットフォーム、テゾス(Tezos)とのコラボレーションで、2021年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチや今年のアート・ドバイなどに出品されている。


フレディ・ジェイコブ(Freddie Jacob)


フレディ・ジェイコブ《Igho(イゴー)》(2022) Photo: Courtesy the artist

ナイジェリアで活動するクィアのデジタルアーティスト、フレディ・ジェイコブは、自らの交差的なアイデンティティを中心テーマにNFTアートを制作。2020年に世界最大のNFTマーケットプレイス、オープンシー(OpenSea)で、初めてNFT作品を発表した。そこで取り上げたのは、女性のアイデンティティ、女性同士の結束、家族愛、癒し、女性の髪型をめぐる政治性などだ。また、母国語のウルボボ語で「愛」を意味する《Eguono(エグオノ)》と題された作品は、写真共有アプリ、スナップチャットのフィルターを使った画像を思わせる。


ファヌエル・レウル(Fanuel Leul)


ファヌエル・レウル「Beautiful Heirlooms(美しい家宝)」シリーズの作品 Photo: Courtesy the artist

エチオピア人アーティスト、ファヌエル・レウルの作品では、フェイスペインティングや頭冠、布の模様、ビーズ、仮面、太鼓、工芸品などに見られるアフリカ伝統の要素と、未来的なテクノロジーが対比的に用いられている。その印象的なアフロ・フューチャリズムのモチーフは、喜びと平和を伝え、アフリカに関するステレオタイプな先入観を覆そうとするものだ。「Beautiful Heirloms(美しい家宝)」シリーズをはじめとする彼の作品は、伝統的な物語を通して記憶を守ることの大切さを描いている。レウル自身は「共有されている価値観と集団的経験を次世代に残すための手段」だと説明する。

アジスアベバ大学アレ美術工業デザイン学校で美術学士号を取得しているものの、レウルは自らを独学のアーティストだと言う。とはいえ、彼のデジタルアート作品を見れば、色彩理論やデザインの原理に関する深い知識と理解があるのは明らかだ。彼は、アフリカのアーティストが、自分たちの物語を主体的に表現できるような流れを作りたいとしている。


ヤトレダ(Yatreda)


ヤトレダ《Strong Hair(強い髪)》(2022) Photo: Courtesy the artist

ヤトレダは、キヤ・タデレがエチオピアで共同設立したアーティストコレクティブだ。彼らは、ブロックチェーン上でエチオピアの歴史を称え、記録することを目的に、アートとデジタル技術の接点を追及したNFT作品を発表している。ヤトレダにとってNFTは、自分や他者のアイデンティティと誇りを再発見する手段なのだ。

初のNFTプロジェクト「Kingdoms of Ethiopia(エチオピア王国)」シリーズは、王や戦士、王国についての伝統的な物語を伝えるモーションポートレートの傑作で、エチオピアの伝統文化に対する認識を高めることに貢献した。また、最新のNFTプロジェクト作品《Strong Hair(強い髪)》は、アフロ、剃り込み模様、廃れつつある独特な三つ編みなど、アフリカの伝統的な髪型の多様性を表現した100点のモーションポートレートで構成されている。


アブドゥルラフマン・アデソラ・ユスフ(Abdulrahman Adesola Yusuf)


ウィーンのAG18ギャラリーに展示されたアブドゥルラフマン・アデソラ・ユスフの作品 Photo: Courtesy AG18 Gallery

ナイジェリアの最大都市ラゴス出身のデジタルアーティスト、アドゥルラフマン・アデソラ・ユスフは、Arclight.jpg(アークライト・ジェイペグ)としても知られる。そのアートは、「共感は自分を愛することから始まる」という信念に根ざしたものだ。現代の若者文化を描いた大胆な色彩のデジタルアート作品でも、この信念をさらに深掘りし、自己認識、成長、意識、人間の潜在的な衝動などをテーマにしている。

デジタルイラストレーションと写真の境界線上にあるような彼のコラージュは、鮮やかでコントラストの強い色彩が特徴的だ。バロックやロココといった歴史上の芸術運動から、ミニマリズムやポップといった新しいムーブメントまで、多様な要素を取り入れているとユスフは語る。最近では、ウィーンのAG18ギャラリーで開催されたアフリカンアーティスト財団主催のグループ展、「Beauty and the Beholder(美と見る者)」にも参加している。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月5日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい