色鮮やかなキルトで描く等身大の黒人像。その制作過程をビサ・バトラーが語る
ビサ・バトラーのキルト作品には、鮮やかな色彩でアフリカ系アメリカ人の等身大の肖像が描かれている。写真をもとに、カラフルな布で対象を表現するユニークな制作プロセスは、バトラーが受けた正式な美術教育と家族の伝統を反映したものだ。
バトラーは絵を学んだ後、美術教育の修士号を取得している。高校で長年美術を教え、余暇に服やキルトを作っていた。裁縫の仕事をしていた母親や祖母をはじめ、バトラーに影響を与えた人物は多い。たとえば、アフリコブラ(*1)のメンバーで、ハワード大学でバトラーの担当教官だったジェフ・ドナルドソン。また、黒人の生活シーンを色と柄の組み合わせで表現するキルト作家のフェイス・リングゴールドやコラージュ作家のロマーレ・ベアデン。そして、肖像画家のエイミー・シェラルドやケヒンデ・ワイリーだ。
バトラーの作品制作は写真から始まるが、白黒写真であることも多い。それは有名人だったり、家族だったり、時には名もなき人々の写真も使われる。有名人を扱ったものには、2020年8月に死去した俳優のチャドウィック・ボーズマンを称えて制作した作品《Forever》がある。また、バトラーが初めて作ったキルトでは、母方の祖父母の結婚式を描いている。《I am No Your Negro(私はあなたのニグロではない)》(2019)は、ミシシッピ州のグリーンビルで見つかった大恐慌時代の黒人男性の写真を使ったもので、作品のタイトルは同名の著書がある作家のジェイムズ・ボールドウィンへのオマージュだ。
バトラーは写真を紙の上に拡大投影し、明暗のアウトラインを描いていく。「線ばかりで地形図のように見える」状態のものを型紙とし、ベルベットやレース、シルクシフォン、チュール、オーガンザやギャバジンなど、さまざまな生地を形に合わせてカットする。バトラーは、常に色が象徴するものを意識していると言う。「パワフルでリーダー的な人物の場合は赤をベースに使い、その上に重ねる色が赤との相互作用を生むようにするんです」
布選びにもバトラーのメッセージが込められている。彼女が好んで使うのは、フリスコ社のダッチ・ワックス・コットン(染色工程でワックスを使用)で、特に西アフリカで人気があるものだ。この木綿布は、華やかな色の組み合わせや模様が特徴で、象徴的な意味を持つものが多い。バトラーは父親の祖国ガーナの布を選ぶこともある。
作家・詩人で公民権運動の活動家でもあったマヤ・アンジェロウの自伝をタイトルにした作品、《I Know Why the Caged Bird Sings(歌え、翔べない鳥たちよ)》(2019)は、4人の黒人女子学生がアトランタ大学の建物の階段に座っている19世紀末の写真をもとに制作された。アンジェロウの詩には「カゴの中の鳥は自由を歌う」という一節があるが、このキルト作品には飛ぶ鳥の模様がいくつも使われ、米国で初めて高等教育を受けることを許された世代の黒人女性を象徴している。ちなみに、大学を卒業した初の黒人女性は、1862年にオーバリン大学を卒業し学士号を取得したメアリー・ジェーン・パターソンだとされている。
左端に座っている女性の帽子には、自由、繁栄、変化を意味するフリスコの模様「スピードバード」が、中央右の女性の袖には、カゴから飛び立つ鳥の模様が使われている。右端の女性のスカートは、「ミシェルの靴」と呼ばれるフリスコ生地だ。西アフリカや中央アフリカの生地には、時事問題や社会的な出来事を記念して作られるものがある。バトラーは、「これは、2009年にオバマ夫妻がガーナを訪問した後にできたもの。ガーナの人々がミシェル・オバマのファッションに夢中になったので、『ミシェル・オバマの靴』と『ミシェル・オバマのバッグ』という二つの記念柄の生地が作られたんです」と説明する。バトラーはこの布を選ぶことで、初めて大学で学ぶ道を切り開いた黒人女性と、初の黒人ファーストレディを結び付けている。
バトラーによると、構図を決める際には、布片を固定するためにたくさんのピンと接着剤を少し使うという。人物は、背景となる生地や中綿、裏地の上に加えていく。そして納得のいく配置になったら、ロングアームミシンでその部分の布地を縫い付け、糸でディテールとテクスチャーを加える。「人物を組み立てるのに1カ月、縫製にかかるのは1週間くらいですね」
最近は、人種間の公正さを求める運動に刺激を受け、バトラーはより「現在」のテーマを取り上げるようになった。「私はこれまで、世界の変化や社会正義のヒーローを過去のものとして考えていました。たとえば、奴隷制度廃止運動の活動家だったハリエット・タブマンやフレデリック・ダグラスです」。この二人は、過去にバトラーがキルト作品で取り上げている。バトラーはまた、「私たちは歴史的な瞬間の中に生きていて、今まさに生きているヒーローがいるんだということを意識するようになった」と語る。彼女の最新作の一つは、#MeToo運動の創始者であるタラナ・バークの肖像画で、バークが2021年に出版した回顧録『Unbound(束縛からの解放)』の表紙に使われた。
バトラーのキルトによる肖像画は、見る人と対等であってほしいという思いから、等身大で描かれている。彼女のアーティストとしての喜びは、さまざまな立場の人が彼女の作品に反応するのを見ることだ。「私が伝えようとしている人間性、つまり、この人は大切で価値があるのだということが伝わった時、そして私たちは皆同じなんだと理解してもらえた時は、とても満足感があります」(翻訳:平林まき)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月29日に掲載されました。元記事はこちら。