「フェルメールのラブレター」展がNYで開催中。鉄鋼王フリックの邸宅美術館で8月末まで

約325億円を投じたリノベーションが完了し、今年4月に再オープンしたニューヨークのフリック・コレクションで、特別展「Vermeer’s Love Letters(フェルメールのラブレター)」が開催されている。同館が所蔵する作品に加え、オランダアイルランドから貸し出された作品を紹介しよう。

ヨハネス・フェルメール《婦人と召使》(1664-67年頃) Photo: Courtesy The Frick Collection

ニューヨークのセントラルパークを望むフィフスアべニュー沿いに建つフリック・コレクションは、約5年の改装期間を経て、今年4月に再開。現在、女性と召使、そして手紙を題材にしたフェルメールの3枚の作品を集めた展覧会を開催中だ(8月31日まで)。

同展では、フリック・コレクションの《婦人と召使》(1664-67年頃)のほか、オランダアムステルダム国立美術館から貸し出された《恋文》(1669-70年頃)、そしてアイルランド国立美術館所蔵の《手紙を書く婦人と召使》(1670-72年頃)が、噴水池のある中庭奥の特別展ギャラリーに並んでいる。

中央に飾られた《婦人と召使》は、何かが書かれた紙を、召使が手紙を書いている女性に渡そうとする場面で、女性は左手の指を顎に当て、不安げな表情で召使のほうを見ている。何もない漆黒の背景に浮かび上がる2人の姿はミステリアスで、特に女性が身にまとった黄色いローブに当たった光が印象的だ。

なお、フリック・コレクションではこの作品のほか、《中断された音楽の稽古》(1659-61年頃)と《兵士と笑う女》(1657-58年頃)の2点のフェルメール作品を所蔵。どちらも常設展エリアに飾られている。

ヨハネス・フェルメール《恋文》(1669-70年頃) Photo : Courtesy Rijksmuseum

アムステルダム国立美術館所蔵の《恋文》に描かれた女性も、不安と悲しみが入り混じったような視線を召使に向けている。左手でリュートのネックを持ち、右手に手紙を手にしているところを見ると、召使からそれを渡されたばかりのようだ。引き上げられたカーテンから2人を覗き見るような構図、そして2人の微妙な表情がドラマチックな雰囲気を醸し出している。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使》(1670-72年頃) Photo: Courtesy National Gallery of Ireland

アイルランド国立美術館から貸し出された《手紙を書く婦人と召使》では、ほかの2点と異なり、主人の女性と召使は目を合わせていない。召使は窓の方を向き、女性はテーブルに向かって一心に手紙を書いている最中で、床には書き損じの丸めた紙と封蝋が落ちている。ちなみにこの絵は、1974年と86年の2回、当時の所有者から盗まれている。幸い絵は取り戻され、国立美術館に寄贈された。

フリック・コレクションの庭園から見たレセプションホールの外観。Photo: ©Nicholas Venezia
改装後に公開された2階にあるメダル・ルーム。Photo: Joseph Coscia Jr.
2階部分の新しい展示室の1つ。Photo: Joseph Coscia Jr.
新設のカフェ「Westmorland(ウエストモーランド)」。Photo: Willam jess Laird

特別展が行われているフリック・コレクションは、19世紀後半から20世紀初頭に巨万の富を築いた鉄鋼王、ヘンリー・クレイ・フリックが収集した豪華な美術品を、その邸宅で一般公開している。規模は小さいが、瀟洒な外観と富裕な暮らしを物語る内装、そして、フェルメールやレンブラントエル・グレコゴヤJ.M.W.ターナーコンスタブルフラゴナールアングルなどの巨匠による名画の数々は一見の価値がある。

2020年以来のリノベーションで大きく変わった点は、これまで非公開だった2階の私室部分に展示室が拡大されたことだ。ここにはモネマネドガなどの印象派ギャラリーや、メダルやコインのギャラリー、時計のギャラリーなどがある。また、1935年の美術館開館以来初となるカフェ「Westmorland(ウエストモーランド)」が新設された。ウエストモーランドは、フリック家が私有していた鉄道車両の名に由来するという(カフェのみの利用も可)。

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