ニューヨークのセントラルパークを望むフィフスアべニュー沿いに建つフリック・コレクションは、約5年の改装期間を経て、今年4月に再開。現在、女性と召使、そして手紙を題材にしたフェルメールの3枚の作品を集めた展覧会を開催中だ(8月31日まで)。
同展では、フリック・コレクションの《婦人と召使》(1664-67年頃)のほか、オランダのアムステルダム国立美術館から貸し出された《恋文》(1669-70年頃)、そしてアイルランド国立美術館所蔵の《手紙を書く婦人と召使》(1670-72年頃)が、噴水池のある中庭奥の特別展ギャラリーに並んでいる。
中央に飾られた《婦人と召使》は、何かが書かれた紙を、召使が手紙を書いている女性に渡そうとする場面で、女性は左手の指を顎に当て、不安げな表情で召使のほうを見ている。何もない漆黒の背景に浮かび上がる2人の姿はミステリアスで、特に女性が身にまとった黄色いローブに当たった光が印象的だ。
なお、フリック・コレクションではこの作品のほか、《中断された音楽の稽古》(1659-61年頃)と《兵士と笑う女》(1657-58年頃)の2点のフェルメール作品を所蔵。どちらも常設展エリアに飾られている。
ヨハネス・フェルメール《恋文》(1669-70年頃) Photo : Courtesy Rijksmuseum
アムステルダム国立美術館所蔵の《恋文》に描かれた女性も、不安と悲しみが入り混じったような視線を召使に向けている。左手でリュートのネックを持ち、右手に手紙を手にしているところを見ると、召使からそれを渡されたばかりのようだ。引き上げられたカーテンから2人を覗き見るような構図、そして2人の微妙な表情がドラマチックな雰囲気を醸し出している。
ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使》(1670-72年頃) Photo: Courtesy National Gallery of Ireland
アイルランド国立美術館から貸し出された《手紙を書く婦人と召使》では、ほかの2点と異なり、主人の女性と召使は目を合わせていない。召使は窓の方を向き、女性はテーブルに向かって一心に手紙を書いている最中で、床には書き損じの丸めた紙と封蝋が落ちている。ちなみにこの絵は、1974年と86年の2回、当時の所有者から盗まれている。幸い絵は取り戻され、国立美術館に寄贈された。
フリック・コレクションの庭園から見たレセプションホールの外観。Photo: ©Nicholas Venezia
改装後に公開された2階にあるメダル・ルーム。Photo: Joseph Coscia Jr.
2階部分の新しい展示室の1つ。Photo: Joseph Coscia Jr.
新設のカフェ「Westmorland(ウエストモーランド)」。Photo: Willam jess Laird
特別展が行われているフリック・コレクションは、19世紀後半から20世紀初頭に巨万の富を築いた鉄鋼王、ヘンリー・クレイ・フリックが収集した豪華な美術品を、その邸宅で一般公開している。規模は小さいが、瀟洒な外観と富裕な暮らしを物語る内装、そして、フェルメールやレンブラント、エル・グレコ、ゴヤ、J.M.W.ターナー、コンスタブル、フラゴナール、アングルなどの巨匠による名画の数々は一見の価値がある。
2020年以来のリノベーションで大きく変わった点は、これまで非公開だった2階の私室部分に展示室が拡大されたことだ。ここにはモネ、マネ、ドガなどの印象派ギャラリーや、メダルやコインのギャラリー、時計のギャラリーなどがある。また、1935年の美術館開館以来初となるカフェ「Westmorland(ウエストモーランド)」が新設された。ウエストモーランドは、フリック家が私有していた鉄道車両の名に由来するという(カフェのみの利用も可)。
フェルメールの生涯と全37作品を総まとめ! 最高傑作はどれ?
17世紀オランダで活躍した画家
フェルメールは、生前こそ成功を収めたものの、死後は長く忘れられていた。再評価を経て美術史における地位を確立したいまも、真贋をめぐる議論は尽きない。この記事では37作品をピックアップし、光と静けさの画家の制作を振り返る。
《フルートを持つ女》(1664-67年頃) Photo: National Gallery of Art, Washington D.C
《ヴァージナルの前に座る女》(1670-72年頃) Photo: Leiden Collection
《聖プラクセディス》(1655年) Photo: Kufu Company, Inc., on long-term loan to National Museum of Western Art, Tokyo
《赤い帽子の女》(1664-67年頃) Photo: National Gallery of Art, Washington, D.C.
《マルタとマリアの家のキリスト》(1654-55年頃) Photo: National Galleries of Scotland
《ディアナとニンフたち》(1655-56年頃) Photo: Mauritshuis
《ギターを弾く女》(1670-72年頃) Photo: Wikimedia Commons/Kenwood House
《ワイングラスを持つ娘》(1659-61年頃) Photo: Wikimedia Commons/Herzog Anton Ulrich Museum
《取り持ち女》(1656年) Photo: Wikimedia Commons/Gemäldegalerie Alte Meister
《少女》(1664-67年頃) Photo: The Metropolitan Museum of Art
《小路》(1658-59年頃) Photo: Rijksmuseum
《中断された音楽の稽古》(1659-61年頃) Photo: Wikimedia Commons/Frick Collection
《紳士とワインを飲む女》(1659-61年頃) Photo: Wikimedia Commons/Gemäldegalerie Alte Mister
《窓辺で手紙を読む女》(1657-58年頃) Photo: Wolfgang Kreische/©Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden
《水差しを持つ女》(1662-64年頃) Photo: Metropolitan Museum of Art
《リュートを調弦する女》(1662-64年頃) Photo: Metropolitan Museum of Art
《手紙を書く女》(1664-67年頃) Photo: National Gallery of Art, Washington, D.C.
《音楽の稽古》(1662-64年頃) Photo: Royal Collection Trust
《婦人と召使》(1664-67年頃) Photo: Wikimedia Commons/Frick Collection
《合奏》(1662-64年頃) Photo: Wikimedia Commons/Isabella Stewart Gardener Museum
《ヴァージナルの前に座る女》(1670-72年頃) Photo: Wikimedia Commons/National Gallery, London
《手紙を書く婦人と召使》(1670-72年頃) Photo: Wikimedia Commons/National Gallery of Ireland
《兵士と笑う女》(1657年頃) Photo: Wikimedia Commons/Frick Collection
《真珠の首飾り》(1662-64年頃) Photo: WikimediaCommons/Gemäldegalerie
《天文学者》(1668年) Photo: Musée du Louvre
《真珠の耳飾りの少女》(1664-67年頃) Photo: Mauritshuis, The Hague
《眠る女》(1656-57年頃) Photo: Metropolitan Museum of Art
《レースを編む女》(1666-68年頃) Photo: Musée du Louvre
《ヴァージナルの前に立つ女》(1670-72年頃) Photo: National Gallery, London
《デルフトの眺望》(1660-61年頃) Photo: Mauritshuis, The Hague
《牛乳を注ぐ女》(1658-59年) Photo: Rijksmuseum
《天秤を持つ女》(1662-64年頃) Photo: National Gallery of Art, Washington, D.C.
《地理学者》(1669年) Photo : Städel Museum
《(手紙を読む)青衣の女》(1662-64年頃) Photo : Rijksmuseum
《信仰の寓意》(1670-74年頃) Photo : Metropolitan Museum of Art
《恋文》(1669-70年頃) Photo : Rijksmuseum
《絵画芸術》(1666-68年頃) Photo : Kunsthistoriches Museum
あわせて読みたい