才能の登竜門「クリアリング」が閉鎖、14年の歴史に幕。NYでギャラリー閉鎖が相次ぐ

アート市場が停滞し始めた2023年後半以降、ニューヨークでは閉業するギャラリーが目立つようになった。その動きがここにきて加速しているようだ。8月7日には数多くのアーティストを育ててきた「クリアリング(CLEARING)」が閉鎖を発表。その前日には老舗ギャラリーの「カスミン(Kasmin)」が営業停止を明らかにしている。

2017年にブルックリンのクリアリングで開催されたコラクリット・アルナーノンチャイの個展。Photo: Courtesy Clearing

大規模スペースで知られるギャラリー、クリアリングが、ニューヨークロサンゼルスの拠点を閉鎖し、14年間の活動に幕を下ろした。同ギャラリーは、コラクリット・アルナーノンチャイ、ハロルド・アンカート、マルグリット・ユモーなど、日本でも個展や芸術祭などで紹介されている数多くのアーティストを発掘してきた。

この1カ月、ニューヨークに拠点を置くギャラリーの間では同様のニュースが相次ぎ、ブラム、ヴィーナス・オーバー・マンハッタン、カスミンが閉業を決めている。営業停止を明らかにしたばかりのカスミンは、今後、幹部を務めてきたニック・オルニーとエリック・グリーソンが「オルニー・グリーソン(Olney Gleason)」を設立して再出発する。

ニューヨークではこの1年あまりの間に、ミッチェル・イネス&ナッシュのような大手から、デイヴィッド・ルイスのような中堅どころまで、さまざまなギャラリーが閉鎖された。デイヴィッド・ルイスはその後、ハウザー&ワースのシニアディレクターとして活動している。

クリアリングの最後の展覧会は、ニューヨークのココ・ヤングとロサンゼルスのヘンリー・クルチョドの個展で、前者は6月に、後者は7月に終了していた。閉鎖に際して同ギャラリーの創設者であるオリヴィエ・バビンがアート・ニュースペーパー紙に語った言葉には、無念さが滲み出ている。

「私たちは希望を持ち続けていました──ある種の非合理的なやり方であったとしても、状況を好転させられると。しかし、窮地を脱することはできませんでした」

またバビンは、「家賃や輸送費、アートフェアの出費など経費が膨らむ一方で、収入は急減し、経営を圧迫してきた」と述べ、「もし有能な財務責任者がいれば、半年から2年前には撤退を決断していただろう」と振り返った。

2011年にブルックリンでオープンしたクリアリングは、当時アートギャラリーが集まっていたブッシュウィック地区で頭角を表した。その広大なスペースでは、コラクリット・アルナーノンチャイやメリエム・ベンナニの大規模ビデオインスタレーション、マルグリット・ユモー、ブルーノ・ジロンコリの巨大彫刻のほか、クリアリングで10回の個展を開催した後、デイヴィッド・ツヴィルナーに移籍した画家、ハロルド・アンカートの展覧会などが開催されている(アンカートは現在、3大メガギャラリーの1つであるガゴシアンに所属)。

そのほか、クリアリングの主要アーティストには、リリ・レイノー=デュワール、ザック・キットニック、ヒュー・ヘイデン、マリーナ・ピンスキー、ジャン=マリー・アプリーユ、フーマ・ババなどがいる。

設立翌年の2012年にブリュッセル、2020年にはロサンゼルスへ進出した同ギャラリーは、2023年にニューヨークの拠点をブルックリンからマンハッタンのバワリー地区に移転。3階建てのスペースで営業を開始した。

しかし2024年になると、運営面での軋みの兆候が表れる。当時、アートネット・ニュースは、創設者のバビンとブリュッセルの責任者だったロドヴィコ・コルシーニの間に、欧州事業の方向性に関する意見の相違があると報じた。その後クリアリングは、「アメリカとヨーロッパの拠点は、それぞれ別の方向に進むことになった」と発表。コルシーニは現在、ブリュッセルで自らの名前を冠したギャラリーを運営している。

クリアリングがインスタグラムに投稿した声明では、関係者への感謝が次のように述べられている。

「この取り組みを意味あるものにしてくれた全てのアーティストに感謝し、彼らのビジョンを支持してくれた美術館やキュレーター、コレクターに敬意を表します。また、現在の、そしてこれまで支えてくれたチームメンバーの献身と努力に感謝します。クリアリングは何よりも、全員の協力の下に進んできました。私たちが達成した成果は全て、皆のものです」(翻訳:石井佳子)

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