ハイラインがシャネル・カルチャー・ファンドと提携。作家と鑑賞者に「ブレイクスルーの瞬間を」

荒廃し、治安が懸念されていたマンハッタンの廃線を都市型公園として再生した「ハイライン」が、シャネル・カルチャー・ファンドとの提携を発表した。メディアアートやタイムベースド・アートの分野で活動する新進作家を支援するこのプログラムは、今年9月に公開予定。

フランク・ワン・イェフェン《Groundless Flower - ཨ》(2025) Photo: Courtesy of the Artist
フランク・ワン・イェフェン《Groundless Flower - ཨ》(2025) Photo: Courtesy of the Artist

1980年に廃線になったウェストサイド線を再利用したマンハッタンの人気遊歩道「ハイライン」のアート部門「ハイライン・アート」が、シャネル・カルチャー・ファンドとの提携を発表した。

この提携により両者は今年9月から、デジタル作品やタイムベースド作品を手掛ける新進気鋭のアーティストたちを対象としたプログラム「High Line Originals」を開催する。会場となるのは、ハイラインの高架下にある展示スペース「ハイライン・チャンネル」で、同プログラムはこれまでの隔年開催から年次開催となる。キュレーターのテイラー・ザカリンはUS版ARTnewsに対し、「アーティストと通行人の双方に“ブレイクスルーの瞬間”を与えたい」と話し、こう続ける。

「ハイラインのような公共の場であれば、格式ばったギャラリーに敷居の高さや居心地の悪さを感じていた人々にも、抵抗なくアートとの出会いを提供できると考えました。絵画や彫刻と比べて歴史の浅い映像作品やメディアアート、タイムベースド・アートの場合は、なおさらです」

ハイライン・チャンネルではこれまで、2019年に行われた第1回「High Line Originals」でトルマリンの《Salacia》が上映されたほか、ジネブ・セディラやジャコルビー・サッターホワイト、スカイ・ホピンカをはじめとするアーティストの作品が、グループ展、あるいは個展といった形式で展示されてきた。今回で4度目の開催を迎える同プログラムでは、フランク・ワン・イェフェン(Frank Wang Yefeng)による《Groundless Flower – ཨ》(2025)を上映予定。作品タイトルに使われている「ཨ」はチベット文字で、「すべての物事の始まりを意味する原始的母音」だとワンは説明する。

上海で生まれ、ブルックリンを拠点に活動するワンは、都市環境が社会的疎外感をどう助長し、また和らげうるかを多角的に探るマルチメディア表現で知られる。かつて荒廃していた高架線が緑豊かな公共空間として再生されたハイラインの風景と共鳴する選出と言えるだろう。

《Groundless Flower – ཨ》は今年11月までループ再生されたあと、ロンドンのタイム&ライフビルディングでシャネル・カルチャー・ファンドが展開するサイトスペシフィックな公共芸術プログラム「Window」の一環として上映される。東西の文化的モチーフと、ゴビ砂漠、青蔵高原、ニューメキシコのバッドランズをめぐる遊牧の記憶が入り混じる本作は、深淵な夢の断片のような映像体験となるだろう。

このプログラムではさらに、ツァオ・フェイ(曹斐)の《DUOTOPIA 2》、ルー・ヤンの《DOKU Pieces》、ヤコブ・クスク・ステンセンの《Triglav of Berl Berl》の上映会も9月8日と9日に行われる。また11月には、シャネル・カルチャー・ファンドが「Window」のプログラムとして昨夏上映したペトラ・コートライトの《wet sunlight Paradis 'pomme de terre' 3D》が、ハイライン・チャンネルのグループ展に出品される。

ハイライン・アートとのパートナーシップについて、シャネルのアート・文化・遺産部門のプレジデントを務めるヤナ・ピールはUS版ARTnewsに対してこう語る。

「ワンの作品は技術的な創意工夫にあふれ、ルーツのない生活体験やグローバルな流動性、デジタル化の波といった普遍的なテーマをぶれることなく捉えています。ハイラインからの委託を受けた、あるいはWindowで展示するアーティストが、人間の想像力の限界を押し広げるために何ができるのか。私たちは(今回の提携を通じて)、これからも問い続けたいと考えています」(翻訳:編集部)

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