NYハイラインでビルボード・アート展示が復活! 第1弾は「個人と社会との関係」に対する鋭い問い
世界中から視察が絶えないニューヨークの「ハイライン」は、マンハッタン西側にある高架貨物鉄道の廃線を利用した公園だ。そのビルボードに2カ月替わりでアーティストが作品を発表する「ビルボード・アート・シリーズ」がスタートする。
1930年、ニューヨーク・マンハッタン南部にある工場から製品を運ぶために高架貨物鉄道「ハイライン」が建設された。その後トラック輸送が主流となり、80年代には廃線となった。その全長2.3キロにおよぶ一帯を再活用するため、2009年に生まれたのが都市型公園「ハイライン」だ。
以後、再開発の成功例として世界から注目される「ハイライン」は、ニューヨークきっての「アート&カルチャーの発信地」でもある。中でも注目されているのが、公園の様々な場所にアーティストの作品を期間限定で展示する「ハイライン・アート」。2022年のヴェネチア・ビエンナーレのキュレーターも務めたチェチリア・アレマーニがディレクター兼チーフ・キュレーターとして、これまで様々なアーティストの作品展示を企画し、その都度ニューヨーカーや観光客たちの注目を集めてきた。
さらに2024年9月からは、18番街のハイラインに隣接した場所に再建されたビルボードに2カ月替わりでアートを展示する「ビルボード・アート・シリーズ」がスタートする。このシリーズは過去に2010年から15年にかけても行われており、当時はジョン・バルデッサリ、フェイス・リングゴールド、ルイーズ・ローラーなど著名作家が参加した。
アレマーニは声明で、同シリーズの開始について、「ほぼ10年ぶりに18番街のビルボードが復活し、とても興奮しています。ビルボードという形式は、他のインスタレーションに比べて観客が高架からも地上からも見ることが出来る、アーティストにとっては素晴らしいキャンバスです」と語った。
第1回は1960年ニューヨーク生まれのコンセプチュアル・アーティスト、グレン・ライゴンを起用した。ライゴンは、アメリカの歴史、文学、社会を探求し、その過去と未来の可能性について考察する鋭いテキストベースの作品で知られている。ライゴンの創作は、写真、インスタレーション、ビデオ、彫刻など多岐にわたっており、政治的に挑発的でありながら形式的には厳格な彼の作品は、歴史、言語、アイデンティティにまつわる問題をむき出しにしている。
展示作品は、2008年に発表された彼の象徴的なネオン作品《Untitled》を再編集した《Untitled(America/Me)》。《Untitled》は「AMERICA」の文字が明滅するネオンで作られている。当時はバラク・オバマがアフリカ系アメリカ人初の大統領になることが決まり、アメリカ史における重要な分岐点だった。その中で、明滅する光でこの瞬間の楽観主義とそれに反する側面の両方を暗示したのだ。今回の《Untitled(America/Me)》は、《Untitled》の写真を加工し、文字の大部分に太い黒のXを描き、「M」と 「E 」の文字だけを残して 「ME」と綴った。
その意味について、「ハイライン」のホームページではこう説明されている。
「アメリカで個人と社会との関係がますます複雑になっていることを示している。逞しい個人主義の賛美は、アメリカ開拓時代の初期に端を発する、アメリカ人のエートスの基礎的要素である。しかし、この信念には代償が伴う。(この作品は)自分第一の精神に突き動かされ、コミュニティや他者をますます軽視する、一見自己中心的な人々の姿を浮き彫りにしている」
一方でアレマーニは、ライゴンが切り取った「ME」の文字は「現在のアメリカの政治的な状況に新たな共鳴を見出すでしょう」と語った。
ライゴンは声明の中で、自身の作品について、 「ペンキや言語、ネオンは素材です。私はAMERICAという言葉を素材にして遊ぶことに興味があります。それを消したり、反転させたり、逆さまにしたり、不愉快に点滅させたりするのは、この言葉の意味を誰もが知っていると思っているからなのです」と話している。
「ビルボード・アート・シリーズ」は30丁目と31丁目の間にあるダイアー・アヴェニューでも行なわれており、これで2例目となる。こちらには2023年9月から、現在はヒスパニック系移民と中国系移民にルーツを持つマリア・マグダレーナ・カンポス=ポンスの作品が展示される(11月まで)。(翻訳:編集部)
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