伝説のテレビ画家ボブ・ロス、没後30年で作品価値が急騰。英オークションで約1700万円の新記録
アメリカの公共放送サービス(PBS)で放送されていた「ボブの絵画教室(原題:The Joy of Painting)」のホスト、ボブ・ロスの作品に今、美術市場から熱視線が送られている。

軽妙なトークとともに壮大な風景画をものの30分で完成させるテレビ番組「ボブの絵画教室(原題:The Joy of Painting)」のホストを務めていたボブ・ロス。彼が生前手がけた作品が現在、美術市場で高く注目されている。
ボナムズに出品された2点のロスの作品は、いずれも1990年代初頭に制作された山と湖の風景画だ。《Lake Below Snow-Capped Peaks and Cloudy Sky(雪化粧した峰々と曇り空の下の湖)》と題された作品は11万4800ドル(約1690万円)で、《Lake Below Snow-Covered Mountains and Clear Sky(雪に覆われた山々と晴れ空の下の湖)》は9万5750ドル(約1410万円)で落札された。いずれも3〜5万ドル(約440〜736万ドル)の予想落札価格を大きく上回る結果となった。
1995年に53歳で亡くなったロスは、1983〜1994年までアメリカの公共放送サービス(PBS)で放送された番組で一躍人気に。ポップ・アイコンとしての地位を確立したロスの看板番組は、放送終了から30年を経たいまでもPBSで再放送されている。2015年のロスの誕生日には、ライブ配信サイト、Twitchでイッキ見配信が行われ、常時4〜6万人が同時接続。世代を超えた人気ぶりを見せつけた。
番組で制作された絵画は各回3バージョンずつ、総計1143点に及ぶ。ロス自身は、キャリアを通じて3万点以上の作品を手がけた。
しかし、これほどの多作、知名度にもかかわらず、ロスの作品がオークションに出品されることはこれまでほとんどなかった。アートネットの記録によれば、ロスの絵画がオークション初出品されたのは2009年だというが、作品には買い手が付かなかった。初めて落札者が現れたのは2023年3月で、エンターテインメント関連専門のオークションハウス、ジュリアンズに出品されたサイン入りのメモと書籍、そして森林風景画のセットが1万1700ドル(現在の為替で約172万円)で落札されている。
その後、アメリカ各地の地方オークションハウスで7点の作品が出品され、いずれも3〜5万5000ドル(約440〜810万円)で落札された。10万ドル(約1470万円)前後で取引されたのは、今回ボナムズに出品された2点が初めてだ。
ボナムズのアメリカ美術専門家であるアーロン・アンダーソンはアートネットに、近年の関心の高まりがなければロス作品の出品はなかっただろうと語っている。その理由として「市場での扱いづらさ」と「キッチュな作品であるという偏見」があることを挙げ、こう説明する。
「彼をポップカルチャーのアイコンと捉えることもできますし、アメリカーナ様式(*1)の文脈で活動したアーティストと考えることもできます。彼の作品を既存の枠組みに収めることはできないのです」
*1 アメリカの文化や歴史、風景などを反映した芸術やデザインスタイル。
今回落札された作品はいずれも同一のプライベート・コレクターから出品されたもので、「ボブの絵画教室」と自身の作品の宣伝ツアーに訪れていたロス本人から購入したという。アンダーソンは、ロス作品に対する需要の高まりは「ノスタルジアが影響している」と推測する。雪化粧をした山々や多くの木々、さまざまな青の陰影が描かれている作品に、懐かしさと魅力を感じる人が増えているというのが彼の考えだ。