隠蔽の可能性も? 物件写真に映り込んだナチス略奪のバロック絵画、またもや姿を消す
80年前にナチスに略奪されたイタリア画家の作品が、不動産会社が掲載した物件写真から偶然発見された。オランダ紙の報道後、絵画は再び姿を消し国際的な捜査に発展している。

第二次大戦中にナチスによって略奪されたバロック時代の絵画が、アルゼンチンの不動産会社が掲載した物件情報を通じて発見された。しかし、この発見がオランダの日刊紙アルヘメン・ダフブラット紙によって報じられた直後、再び所在がわからなくなり、警察による捜査が始まっている。
捜査の対象となっている作品は、ジュゼッペ・ジスランディが制作した女性の肖像画だ。イタリア後期バロック時代において重要な作家として評価されているジスランディの作品は、失われた美術品のデータベースに登録されており、現在もオランダ政府によって「未返還」に分類されている。
データベースによれば、元の持ち主はユダヤ系オランダ人のアートディーラー、ジャック・ゴウドスティッカーだったという。ゴウドスティッカーとその家族は、ナチスによる迫害を恐れアムステルダムを離れたが、1940年に船上の事故により死亡。残された遺族はその後、アメリカに定住した。
1100点以上に及ぶ古典絵画コレクションを有していたゴウドスティッカーだが、彼の死後まもなく、ナチス・ドイツの国家元帥、ヘルマン・ゲーリングによって相場を大幅に下回る価格で強制的に買い上げられた。こうした作品の一部は遺族の元に戻っており、その一例として、2023年にはコルネリス・ファン・ハールレムの絵画が返還された。
ゴウドスティッカーの遺族の元へ返還された美術品は、2009年にニューヨークのユダヤ博物館で開催された展覧会で紹介された。そこには、サロモン・ファン・ロイスダールやヤーコプ・ファン・ロイスダールを初めとするオランダ人画家の作品も含まれていた。当時、彼の遺族の元には200点の作品が返還済みであると説明されている。
一方、ジスランディの肖像画はその後、親衛隊将校フリードリヒ・カドギエンの手に渡った。1945年までスイスに居住していたカドギエンはのちにブラジルとアルゼンチンで暮らし、1978年にブエノスアイレスで死去した。
アルヘメーン・ダフブラット紙は、カドギエンの親族に取材を申し込んだが応じてもらえず、さらにアルゼンチンの海岸リゾート都市、マル・デル・プラタの住宅にも訪れたが、廊下を動く人影を確認したものの応答はなかったと報じている。その後、ブエノスアイレスに住むカドギエンの娘たちにInstagramを通じて接触したところ、「どんな情報を求めているのかわかりませんし、どの絵画について話しているのかも知りません」という回答だったという。さらに、不動産会社は現在までに物件情報を削除しており、娘もInstagramのアカウント名を変更している。
アルヘメン・ダフブラット紙の記事公開後、アルゼンチンの日刊紙ラ・ナシオンは、当該物件のリビングから絵画は撤去され、代わりに「風景と馬が描かれた大きなタペストリー」が掛けられていたと報じた。アルゼンチンの連邦検察官は「絵画は家にはなかったが、捜索は続ける」と述べており、この捜査にはインターポールも関与している。(翻訳:編集部)
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