ナチスに略奪された17世紀絵画の返還をテートが発表。ユダヤ系の元所有者相続人の請求を受け入れ
イギリス国内で複数の文化施設を運営するテートが、ナチスが略奪した絵画を返還すると発表した。それはトロイア戦争の一場面を描いた17世紀の作品で、テートが30年前にブリュッセルの画廊から購入したもの。

イギリス政府が所有する美術品を所蔵・管理するテートが、ナチスによる略奪品の返還を発表したと、アートニュースペーパー紙が伝えた。元の持ち主はユダヤ系ベルギー人のアートディーラーで、返還はその相続人に対して行われる。
返還されるのは、17世紀のイギリス・カンタベリーの画家、ヘンリー・ギブスによる《Aeneas And His Family Fleeing Burning Troy(燃え盛るトロイから逃げるアイネアスとその家族)》(1654)。テートは1994年にこの作品をブリュッセルのヤン・デ・ミール画廊から購入した。
イギリスでは、ナチスによる略奪品の返還に関する諮問委員会が設置されており、ナチスに奪われ、現在イギリスの国家コレクションとして所蔵されている文化財に対する返還請求への対応を行っている。
テートのプレスリリースによると、同諮問委員会は2024年5月に、ソニア・クライン・トラストの代理を務める管財人を通じて、ギャラリーオーナーだったサミュエル・ハートフェルトの相続人から返還請求を受けたという。プレスリリースでは、請求に対する審査の結果が次のように説明されている。
「略奪品に関する諮問委員会はあらゆる証拠を検討したうえで、絵画の返還請求には法的・道義的に十分な説得力があり、ソニア・クライン・トラストには絵画の返還を請求する権利があると閣僚に勧告することを決定した」
一方、テートのディレクターであるマリア・バルショーは声明で、1994年にこの作品を購入した際、その来歴を「徹底的に調査したが、過去の所有者に関する重要な事実は明らかになっていなかった」と述べている。
ソニア・クライン・トラストの管財人は、諮問委員会の返還勧告を受け入れたテートの対応について、「オープンマインドで迅速だった」とコメント。また、第2次世界大戦中にベルギーでナチスの迫害を受けたサミュエル・ハートフェルトとその家族の苦難について書かれた『Kunst voor das Reich(帝国のための芸術)』の著者、ヘルト・セルスの学術的業績を評価するとしている。(翻訳:石井佳子)
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