「パルテノン神殿彫刻を返還する義務はない」──大英博物館の新理事に返還反対派の学者が就任

大英博物館の20人の理事のうち、新たに5人が3月21日に任命された。その中に、同博物館が所蔵するパルテノン神殿の大理石彫刻など、植民地時代に持ち出された略奪文化財の返還不要論を唱える学者がいる。

大英博物館に展示されているパルテノン神殿の大理石彫刻。Photo: Nicolas Economou/NurPhoto via Getty Images

ロンドン大英博物館理事会は、理事長のジョージ・オズボーンを含め、4年任期の理事20人で構成される。3月21日に新理事5人が発表されたが、その中で注目されるのが、パルテノン神殿古代ギリシャ彫刻返還に異議を唱える社会学者で、放送業界でも活躍してきたティファニー・ジェンキンス博士だ。

ジェンキンスは著書『Keeping Their Marbles: How the Treasures of the Past Ended Up in Museums - And Why They Should Stay There(彼らの大理石彫刻を保管する:過去の財宝はいかにして博物館に入ったのか - そしてなぜそこに留まるべきなのか)』で、パルテノン神殿彫刻のような遺物が博物館等の所蔵品にされてきた背景にある複雑な問題を検証している。

本国送還を求める声が高まっていることにも触れられているが、これに対してジェンキンスは、そうした訴えがあったとしても博物館には遺物を返還または本国送還する義務はないとの立場を取っている。

大英博物館にあるパルテノン神殿の大理石彫刻は、かつてギリシャ・アテネのアクロポリスに飾られていた。「エルギン・マーブル」とも呼ばれるこの彫刻は、1801年から15年の間、当時ギリシャを占領していたオスマン帝国に駐在していたイギリス大使、エルギン卿によって持ち出されたもの。エルギン卿は、オスマン帝国の指導者がそれを許可したと主張し、1816年に大英博物館で展示されることになった。

こうして合法的に入手したとするイギリス政府と返還を求めるギリシャ政府との間では、正当な所有権をめぐる争いが40年以上続いており、近年は返還の方向に動き出したかに見えていた。

昨年7月に労働党政権が発足すると、デジタル・文化・メディア・スポーツ相に就任したリサ・ナンディは、「(文化施設における)人事の無用な政治化に終止符を打ち、より幅広い人材を活用したい」との意向を表明した。

そうした流れの中で発表された大英博物館の新理事だが、ジェンキンス以外の4人の顔ぶれは、作家でテレビ司会者のクラウディア・ウィンクルマン、ジャーナリストで保守政治家のダニエル・フィンケルスタイン、歴史家でポッドキャスターのトム・ホランド、元BBCラジオのニュースキャスター、マーサ・カーニーといった面々。しかし、ここには有色人種が含まれていないという批判の声もある。

一方、理事会の他の15人には、アマゾン幹部でインド系アメリカ人のプリヤンカ・ワドワン、経済学教授のアビジット・バナジー、中国の経済学者ウェイジャン・シャン、コロンビア系アメリカ人の実業家・慈善家アレハンドロ・サント・ドミンゴなど、さまざまな文化的背景を持つメンバーが含まれている。(翻訳:石井佳子)

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