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パルテノン神殿の彫刻返還問題に光明。大英博物館が「前向きに取り組む」と姿勢軟化

ロンドンの大英博物館に新しく就任したニコラス・カリナン館長は今週、同館に所蔵されているパルテノン神殿の大理石彫刻の返還についてギリシャと正式に合意する可能性について語った。その内容は、同館がこの彫刻をめぐる長年の論争を解決するために、より柔軟な姿勢になった事を示すものだった

大英博物館に展示されるパルテノン神殿の大理石彫刻。Photo: Mike Kemp/In Pictures Via Getty Images

新しく大英博物館館長となったニコラス・カリナンは7月18日、BBCのインタビューで、 ギリシャ政府との協力関係について、「何らかの形でパートナーシップを結ぶことが可能であることを望んでいるし、間違いなく前進させたいと考えています」と答えた。

だが、カリナンはパルテノン神殿の大理石彫刻を返還する事には否定をした。なぜなら、1963年に制定された国会法があるからだ。大英博物館法とも呼ばれるこの法律は、同館が所蔵する美術品を手放すことを禁じている。「私たちは譲歩することも許されていません」と彼は説明した。

パルテノン神殿の大理石彫刻は、19世紀初頭にイギリスの外交官であったエルギン卿によってパルテノン神殿から剥奪され、1832年から大英博物館に所蔵されている。それ以外にも、同館には何世紀も前にヨーロッパやアフリカなどの民族や国家から略奪された品々が多く所蔵されているため、長い間物議を醸してきた。近年、本国送還への関心が高まるにつれ、大英博物館にはそれらの品々の返還を求める声が大きくなっている。

これまでイギリスの政府関係者は、大英博物館のような機関で管理するのが最善だとして、そういった品々を返還しないことを正当化してきた。 しかし、一部の歴史家はその論理に疑問を投げかけている。また、昨年、ある上級学芸員が大英博物館の所蔵品から2000点もの作品を盗んでいたことが明らかになり、同館のコレクション管理能力を疑問視する声も上がっている。

ギリシャ政府はパルテノン神殿の大理石彫刻の返還を断固として求めており、大英博物館は長い間その声に抵抗してきたが、あるイギリスの出版物は、大英博物館が返還の可能性についてギリシャの政治家と対話を行ったと報じた。すると、大理石彫刻はイギリスに留まるべきだと主張する、当時の英国首相だったリシ・スナクは、この報道がなされたとたんにギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相との会談をキャンセルした。

しかしカリナンは、大理石彫刻をギリシャに戻す方法を模索しており、BBCに、 「図書館における館外貸出」の例を参照する可能性があると語った。返還という形にはならないが、このモデルによって、所蔵品を一時的に移動させることができる。彼は今後、同館のために「前向きなことをしたい」と語った。(翻訳:編集部)

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