世界の美術館は「TEFAF」で何を購入した? ヴァロットンからサイの彫刻まで、11館の新収蔵作品を紹介
10月初旬、TEFAF(The European Fine Art Foundation:欧州美術財団)が、今春のアートフェアで世界の主要美術館が購入した作品を公表した。象徴主義の隠れた名作から18世紀にヨーロッパで人気者になったサイの彫刻まで、11館が新たに収蔵した作品を紹介しよう。

TEFAFのアートフェアは、毎年春にオランダのマーストリヒトとアメリカのニューヨークで開催される。近年は現代アート作品の出展も増えているが、中心となるのはやはりオールドマスターの絵画や古美術品で、長年の顧客である著名コレクターやアートパトロン、国際的に活躍する有力キュレーターが足を運ぶ。
今年3月20日から25日にかけてマーストリヒトで開催されたTEFAFのフェアは、US版ARTnewsが報じたように「派手さはないが着実」な売上を達成した。TEFAF広報担当者はそれに加え、前年と比較して美術館による購入が増加したと述べている。
中でも注目すべき例としては、シカゴ美術館(AIC)が、20世紀のベルギー人画家レオン・スピリアールトのパステル画《Autoportrait sur fond bleu(青い背景の自画像)》(1907)を取得したことが挙げられる。オランダのあるアートアドバイザーによると、AICはこの「隠れた名作」を、ブリュッセルとパリにギャラリーを構えるデイヴィッド・レヴィから購入した。
AICの版画・素描部門キュレーター、ジェイ・A・クラークは、同館のキュレーターが10年にわたって毎年TEFAFでスピリアールト作品を探していたと明かし、US版ARTnewsにこう語っている。
「1907年か1908年に制作された傑作が出回るのを待ち続けて、これまでに何度か素描の購入を見送ってきました。今回、印象的で力強い自画像が取得できたので、待った甲斐があるというものです」
AICは早速、新蔵品の肖像画を披露することに決め、2026年1月5日まで開催中の企画展「Strange Realities: The Symbolist Imagination(奇妙な現実:象徴主義の想像力)」に展示している。
そのほか、今春のTEFAFで世界各地の美術館が取得した主な作品には以下のようなものがある。まず、アメリカ・マサチューセッツ州のウスター美術館は、16世紀の画家マールテン・ファン・ヘームスケルクがキリストの埋葬を描いた三連祭壇画の中央パネルを、トリノのギャラリー、カレット&オッキネグロから購入。同じくマサチューセッツ州のウィリアムズタウンにあるクラーク美術館は、ブルターニュの伝統的な衣装を着て麦畑の横を歩く女性の姿を描いたフェリックス・ヴァロットンの絵画《Champ de blé, Locquirec(ロキレックの麦畑)》(1902)をロンドンのアグニュース・ギャラリーから取得した。
また、ニューヨークのメトロポリタン美術館は、ジョゼフ・シナールによる装飾的なテラコッタ彫刻《Tripod(Athénienne)(三脚台[アテニエンヌ])》を、ロンドンのスチュワート・ロックヘッド・スカルプチャーから買い入れている。
そして、今年のTEFAFで売れた最も愛らしい作品と言えるのは、ペトルス・カンパーによる18世紀の彫刻、《Miss Clara(ミス・クララ)》だろう。実在したサイのクララをモデルにした高さ50センチほどの作品は、ミュンヘンのクンストハンデル・メリンガーが販売し、アムステルダム国立美術館のサイの美術品コレクションに加わった。芸術家としてだけではなく科学者としても活躍したカンパーは、当時のオランダの多くの人々と同様、1741年にインドからロッテルダムにやってきたサイのクララに魅了され、この作品を制作。クララはその後、20年近くヨーロッパを巡回し、各地で人気を博した。
以下、2025年のTEFAFマーストリヒトで販売された主な作品の画像を紹介する。(翻訳:清水玲奈)
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