フランク・ロイド・ライト「カリル邸」が国家歴史登録財に。「当時のまま」の保存状態を評価

1957年にフランク・ロイド・ライト(1867-1959)が設計したアメリカ・ニューハンプシャー州の住宅、トゥフィック H. カリル邸が国家歴史登録財に指定された。

トゥフィック H. カリル邸。Photo: Currier Museum of Art.

フランク・ロイド・ライト(1867-1959)が1957年に設計したアメリカ・ニューハンプシャー州の住宅、トゥフィック H. カリル邸が国家歴史登録財に指定された。

この邸宅はライトが考案した「ユーソニアン・オートマティック」様式で建設された。同様式は1930年代後半に彼が開発した、自然材料を多用し、各部屋の間仕切りや扉をできる限り取り払った「ユーソニアン」建築様式をアレンジし、部品を組み合わせるモジュール式の要素を取り入れることで中流階級に手頃な価格で高品質な住宅を提供することを目的としていた。

しかし、実際にはそうはならなかった。1954年にトゥーフィック・カリル博士とミルドレッド・カリル夫妻に依頼されたこの住宅は、使用されたコンクリートブロックが2580個、総重量が150トンを超え、当初の見積もり費用が2万5000ドル(現在の為替で約370万円)のところ、完成時には7万5000ドル(同・1100万円)にまで膨れ上がったという。

ユーソニアン・オートマティック設計の住宅は20軒あったと考えられているが、現在は7軒のみ残っており、カリル邸はその典型例と言える。コンクリートブロックを組み合わせた平屋建ての構造には、打ち込みコンクリートの床、ブロックの間に固定された約350枚の長方形のガラス窓、そして内壁にはマホガニーのパネルとドアが備えられている。

トゥフィック H. カリル邸。Photo: Facebook/Currier Museum of Art
Photo: Facebook/Currier Museum of Art
Photo: Facebook/Currier Museum of Art
Photo: Facebook/Currier Museum of Art
Photo: Facebook/Currier Museum of Art

さらに、建築以来、カリル家が長い期間所有していたこの住宅は、ランプ、敷物、照明器具、家具など、ライトが設計したオリジナルの調度品のほぼ全てが当時のままに残されている。ニューハンプシャー州歴史資源局も、カリル邸の国家歴史登録財指定を伝える際、その理由について「カリル邸は極めて高い水準の完全性を保持しており、完成以来、改変や大規模な修復は一切行われていない」点であると述べている。

米国国家歴史登録財は、歴史的・建築的・文化的価値から保存に値すると認められた遺跡、建造物、構造物、地区、物品を記載した連邦政府の公式リストだ。制定は1966年に始まり、これまでニューヨークの自由の女神像やワシントンD.C.のリンカーン記念堂、サウスダコタ州のラシュモア山国立記念碑、ペンシルベニア州にあるライトが設計した「落水荘」などが指定されている。指定された物件は国による保護や維持の対象となることはないが、税額控除や減免などの優遇措置を受けることができる。

カリル邸は2019年にカリアー美術館によって85万ドル(現在の為替で約1億3000万円)で購入された。同館は通りの先にあるライト設計のジマーマン邸も所有しており、両邸のツアーは美術館を通じて申し込むことができる。(翻訳:編集部)

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