無許可で売却されたフランク・ロイド・ライトの家具を保存団体が取得。散逸防止の「画期的な一歩」

アメリカ・オクラホマ州バートルズビルに建つプライス・タワーは、フランク・ロイド・ライト唯一の高層ビル。そこから許可なく売却されてしまったオリジナル家具などを、ライト建築の保存団体が取得した。このビルをめぐっては、昨年後半に売買契約をめぐる係争が起きていた。

オクラホマ州ワシントン郡バートルズビルにあるプライス・タワー(左)。Photo: Getty Images/iStockphoto

8月7日、フランク・ロイド・ライト建築物保存協会(Frank Lloyd Wright Building Conservancy)は、オクラホマ州バートルズビルのプライス・タワーのためにフランク・ロイド・ライトが設計したオリジナル家具など11点を取得したと発表した。19階建てのプライス・タワーは、ライトが設計した唯一の高層建築として知られている。

取得資金は寄付で賄われており、オンラインで発表された同団体の声明では次のように説明されている。

「我われの団体は通常、建築物の付属品等を購入することはありません。今回この希少な品を買い取ったのは、これらがさらに売却されて散逸するのを防ぐため、そして最終的にプライス・タワーに返還することが目的です」

同団体はさらに、今回の取得を「持続的な保存提言と長期にわたる交渉がもたらした『画期的な一歩』」だとしている。これらの物品は保存契約の対象とされていたが、「2024年に許可なく売却された」という。

このとき売り払われた11点には、高層ビルが建てられた当時のロビーにあった案内板、アームチェア、銅製のテーブル3点、スツール2点、および独自の浮き彫り加工が施された銅製パネル4点が含まれる。これらは現在、ダラス近郊で保管されている。

プライス・タワーの銅製レリーフ(左は緑青なしの状態)。2006年にワシントンD.C.の国立建築博物館で開催された巡回展より。Photo: Nikki Kahn/The The Washington Post via Getty Images

「それぞれのアイテムは、ライトがプライス・タワーを設計するにあたって抱いた建築ビジョンに不可欠な要素です。そして、卓越したデザインのプライス・タワー自体、アメリカを代表する建築家の1人による唯一の高層ビルとして重要な意義を持っています。これらのアイテムが再び、プライス・タワーを訪問する人々の体験の一部となることを私たちは意図しています」

フランク・ロイド・ライト建築物保存協会はこう記し、執行役員のバーバラ・ゴードンは、プライス・タワーに属する物品を一括管理し、一般の市場に流れないようにすることが優先事項だと強調した。最終的にはプライス・タワーに戻すことを目標に掲げるゴードンは、声明でこう述べている。

「今回の取得により、追加の法的措置を取ることで生じる不安定な状況と高額な費用を回避しつつ、地役権で保護された資産を確保することができました。ライトが設計した唯一無二の物品の保存を後押しした寄付者の方々には感謝の念に堪えません」

今年1月21日、バートルズビルのあるワシントン郡のラッセル・ヴァクロー判事が下した判決を受け、プライス・タワーの所有権は140万ドル(約2億円)で移転された。当時ARTnews JAPANでは次のように伝えている。

この判決は、(ビルの)現所有者であるカッパー・ツリーとグリーン・カッパー・ホールディングス(以下、カッパー・エンティティーズ)と、オクラホマ州タルサを拠点とするマクファーリン・ビルディング・カンパニーとの間で交わされた2023年5月の契約を強制執行するものだ。

約半年に及ぶ裁判は、カッパー・エンティティーズが保存契約に反して一部の家具や備品を売却したことで複雑化していた。同社は200万ドル(約3億円)もの債務による財政逼迫を理由に、昨夏これらの物品の競売を開始。しかし、マクファーリンとの契約書には、プライス・タワーの売却は、ライトが特別に設計したものも含めた全設備が対象となることが定められていた。(翻訳:石井佳子)

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