68歳のアート詐欺師、クールベ作品の不正転売で逮捕。過去34年間に11回の有罪判決
手数料なしで仲介するとギャラリストに話をもちかけ、クールベ作品を騙し取った男が、FBIの美術犯罪捜査部隊に逮捕された。男は美術詐欺の常習犯で、過去34年間で11回の有罪判決歴があるという。
ギュスターヴ・クールベの初期作品をロンドンのギャラリストから騙し取ったとして、アメリカ人のトーマス・ドイルが詐欺罪で起訴された。68歳のドイルは11月14日、FBIの美術犯罪捜査部隊に逮捕され、最大20年の禁錮刑が科され得る「通信詐欺（wire fraud）」で起訴された。
ニューヨーク地方裁判所に提出された裁判文書によれば、ロンドンに拠点を置くギャラリスト、パトリック・マシーセンは、2015年にフランスのオークションハウスでクールベの油彩画《Mother and Child on a Hammock》（1844）を購入し、買い手を探していた。その後、2023年にマシーセンからこの油彩画の委託販売を請け負ったニューヨークのニコラス・ホール・ギャラリーは、同年に開催されたTEFAFマーストリヒトで本作に65万ドル（現在の為替で約1億円）の希望価格をつけて販売を試みたが、売却には至らなかった。そのため、この作品は引き続き同ギャラリーに展示されることとなり、その間にドイルがマシーセンへ接触、2人はその後の数年にわたって連絡を取り合うことになった。捜査当局によれば、ドイルは自身を「数十億ドル規模の資産を有する信託のアート部門管理者」と自称していた。
そうして昨年、ドイルはマシーセンに、《Mother and Child on a Hammock》を55万ドル（約8560万円）で購入する意思のある買い手を見つけたと伝え、手数料なしで売却を仲介すると申し出た。しかし、その「買い手」とはドイル自身のパートナーで美術商のシャルヴァ・サルハニシュヴィリであり、ドイルから本作を受け取ったサルハニシュヴィリは、油彩画をニューヨークのジル・ニューハウス・ギャラリーに11万5000ドル（約1800万円）で売却。同ギャラリーは2024年9月、この作品をUS版ARTnewsの「TOP 200 COLLECTORS」にも名を連ねるジョン・ランドーへ12万5000ドル（約1940万円）で転売した。これら一連の売買では、すべてドイルが捏造した来歴が使用されていた。
当然ながら、これらの取引で得られた売却益はマシーセンには一切支払われていない。今年3月、ドイルはメールで、自身がマシーセンを「裏切り、嘘をついた」と認め、サルハニシュヴィリから作品を返却してもらうか支払ってもらうようマシーセンにアドバイスしたが、サルハニシュヴィリがこれに応じることはなかった。
これにより今年9月下旬、マシーセンはドイル、サルハニシュヴィリ、ジル・ニューハウス・ギャラリー、さらに作品を購入したランドーを相手取って訴訟を起こした。訴えによれば、関係者のいずれも作品を委託販売または売却する正当な権利を持っていなかったという。訴状には次のように記されている。
「ニューハウスはマーケットに積極的に参加しているギャラリーで、マシーセンがこの絵画を65万ドル以上で売りに出していることを知っていたはずだ。またランドーは、ニュー・ハウスが当該絵画の所有権を譲渡する立場にないことを認識していたはずだ。なぜなら、ランドーはそれ以前に、この絵画をニュー・ハウス以外の複数の場所で何度も目にしており、作品の価格が65万ドル以上であることも認識していた」
訴状が提出された当時、ジル・ニューハウス・ギャラリーの弁護士は、「原告側の主張には根拠がなく、法廷で徹底的に争う」とコメントした。ランドー側の代理人も「法廷で適切に対処する」として争う姿勢を示している。一方で、サルハニシュヴィリからのコメントは得られていない。
ドイルが詐欺罪で起訴されるのはこれが初めてではない。2010年9月には、ジャン＝バティスト・カミーユ・コローの《Portrait of a Girl》を不正に購入しようとした疑いで、マンハッタン地方検事局から郵便詐欺および通信詐欺の共謀罪で起訴されている。作品は当時、最大135万ドル（約2億1000万円）の価値があるとされていたが、ドイルは80万ドル（1億2450万円）で入手しようと試みた。のちに彼は通信詐欺1件について有罪を認めた。
ドイルの量刑審理を担当した裁判官は、彼が過去34年間に11回もの有罪判決を受けていた事実に言及し、その結果として懲役6年を言い渡した。裁判官は判決に際し、次のように厳しく述べている。
「あなたは紛れもない職業的犯罪者、捕食者です。あなたから社会を守る必要があります」
（翻訳：編集部）
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