アート・バーゼル・マイアミ・ビーチで27億円のウォーホル《モハメド・アリ》が即売却! 市場に「トロフィー・ピース」復権の兆し
アート・バーゼル・マイアミ・ビーチが12月5日から7日まで、マイアミビーチ・コンベンションセンターを舞台に開催されている。それに先駆けて3日に行われたVIPプレビューでは、アンディ・ウォーホルの《モハメド・アリ》(1977)が1800万ドル(約27億円)で登場。すぐに買い手がつき、話題の的となった。
2025年を締めくくる国際的アートフェア、アート・バーゼル・マイアミビーチが12月5日から7日にかけてマイアミビーチ・コンベンションセンターで開催されている。開幕に先立つ3日のVIPプレビューでは、アンディ・ウォーホルの《モハメド・アリ》(1977)が1800万ドル(約27億円)で登場して大きな話題を呼び、瞬く間に買い手がついた。
同作を出品したのはニューヨークのギャラリー、レヴィ・ゴーヴィ・ダヤンだ。伝説のボクサー、モハメド・アリ(1942–2016)をアクリルとシルクスクリーンで描いた約1メートル四方の作品で、裏面にはアリのサインが残されている。前の所蔵者は、ウォーホルの友人であり、彼に「アスリート」シリーズを制作するよう勧めた人物として知られるリチャード・L・ワイズマンだった。
1964年2月25日、22歳のアリは今回のフェア会場でもあるマイアミビーチ・コンベンションセンターで、王者ソニー・リストンに挑戦し、世界ヘビー級王座を奪取した。会場の記録には、この試合が「個性の激突であり、公民権運動最盛期を象徴する政治的スペクタクル」と記されている。勝利を収め、リストンの上に立つアリの姿は、ボクシング史を塗り替えたのみならず、公民権運動を象徴するイメージとして世界に刻まれた。ウォーホルが《モハメド・アリ》を制作したのはその13年後だが、アリの象徴的イメージを強く打ち出し、アメリカにおける彼のセレブリティ性を際立たせるものとなった。
アリにとって特別な意味を持つこの場所で《モハメド・アリ》が出品されたのは、決して偶然ではない。レヴィ・ゴーヴィ・ダヤンの代表ブレット・ゴーヴィがUS版ARTnewsに語ったところによれば、この出品の話は驚くほどのスピードでまとまったという。作品が委託されたのはフェアのわずか10日前で、ニューヨークのオークションシーズン終了直後に持ち込まれたものだった。「すべてはオークションからわずか1週間のうちに起きたことでした。アート市場が傑作を求めて動いているなか、私たちはその決定的な作品を持っていると直感したのです。そしてマイアミとの強い縁が、決断を後押ししました」と振り返る。
ギャラリーでは、オークション出品、プライベートセール、フェア出展という選択肢を検討した。しかし、市場の勢い、作品の歴史的文脈、そしてバーゼルに集まる富裕層という条件がそろい、答えはすぐに出たという。「タイミング、市場、勢い、場所──それらが全て重なる『瞬間』があるとすれば、まさに今回でした」とゴーヴィは語る。
この出品をセンセーショナルなものにするために、ギャラリーは作品が委託された事実を発表可能なぎりぎりの段階まで伏せていた。「もちろん戦略でした」とゴーヴィは明かす。その狙いは見事に的中し、この絵画はブースの「引力の中心」となって、真剣な購入希望者だけでなく、多くの来場者を惹きつけた。
VIPプレビュー当日には、アリやウォーホルの「アスリート」シリーズに縁のある人々が次々に訪れ、ブースは思いがけない「追悼の場」のような雰囲気に包まれたという。アリの人生に関する書籍を多く手がけてきたドイツの出版社タッシェンのベネディクト・タッシェンが写真を撮るために姿を見せ、前所蔵者ワイズマンの妻ビリー・ワイズマンも作品の前に立った。また、アリの息子モハメド・アリ・ジュニアと、養子のアサド・アリも来場したという。ゴーヴィはこの日の空気を「帰郷のような気持ちだった」と語っている。
今回の売買は、慎重ムードが続くアート市場においても、アートフェアが依然として「取引を駆動するエンジン」であることを示す出来事となった。「ギャラリーにとって長年の課題のひとつは、遠隔で作品を購入する人にどうやって魅力を伝えるかという点です」とゴーヴィは言う。予告なしに、思いがけない場所でアリの絵を見せた今回の展示は、その課題への鮮やかな解答になった。
ゴーヴィによれば、マイアミは主要なセカンダリーマーケットの大きな取引が盛んな土地であり、歴史的なロスコ作品やリキテンスタイン作品もフェアで売買されてきた実績がある。また、ギャラリーが最近パリで2550万ドル(約39億4000万円)のゲルハルト・リヒター作品を販売したことも、コレクターが「トロフィー級」の作品に再び関心を寄せている証左だという。
しかし、パリでもニューヨークでも得られない響きがある──1964年、アリが挑戦者からチャンピオンへ、そして選手からアイコンへ変貌した、あの場所でウォーホル作品を売る特別な意味だ。ゴーヴィいわく「私たちは皆、素晴らしい始まりと素晴らしい終わりを持つ物語に惹かれるものです」。なお、購入者については「新しい持ち主はプライベート・コレクターです」とだけ明かし、詳細は語らなかった。(翻訳:編集部)
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