第9回横浜トリエンナーレが2027年に開催。芸術監督は「多中心性」の可能性を拓くキュレーター・デュオ

横浜市で3年に一度開催される現代アートの国際展「第9回横浜トリエンナーレ」が、2027年4月23日から9月12日まで開催されることが決定した。アーティスティック・ディレクターには、国際展の最前線で活躍するキュレーター2人組、ルーマニア出身のコスミン・コスティナシュとコロンビア出身のインティ・ゲレロが就任する。

(写真左)インティ・ゲレロ、(同右)コスミン・コスティナシュ。 撮影:ウォルフガング・ティルマンス 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

横浜市で3年に一度開催される現代アートの国際展「第9回横浜トリエンナーレ」が、2027年4月23日から9月12日までの124日間にわたって開催されることが決定した。横浜美術館を中心に、街の複数の会場を横断しながら、都市の歴史と現在に呼応する現代アートのプログラムが繰り広げられる。

2027年版のアーティスティック・ディレクターに選ばれたのは、国際展の最前線で活躍するキュレーター、コスミン・コスティナシュ(Cosmin Costinaș) とインティ・ゲレロ(Inti Guerrero) の2人。東アジアと欧州・ラテンアメリカをまたぐ活動で知られ、近年「キュレーター・デュオ」としても注目を集めている。

コスティナシュは1982年ルーマニアのサトゥ・マレ生まれ。同国のバベシュ・ボイアイ大学で美術史を学び、2007年にドクメンタ12のマガジン編集チームに参加した。オランダの現代美術センター「BAK」でのキュレーションを経て、2011年〜2022年に香港の現代美術センター「Para Site」のエグゼクティブ・ディレクター/キュレーターを務める。同館の拡張や国際的ネットワーク形成に尽力し、香港アートシーンの国際化に大きく寄与した。

その後はベルリンの「世界文化の家(Haus der Kulturen der Welt)」でシニア・キュレーターとして活動。これまでに、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ(2022)のルーマニア館共同キュレーター、第10回上海ビエンナーレ(2014)共同キュレーター、ダッカ・アート・サミット’18ゲスト・キュレーターなど、多くの国際展を手がけてきた。

第8回横浜トリエンナーレ展示風景(横浜美術館外観)
撮影:山本真人
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

一方のゲレロは1983年コロンビアのボゴタ生まれ。ボゴタとサンパウロの大学で美術・建築史および理論を学んだ後、アムステルダムのデ・アペル芸術センターのキュレーター養成プログラムを修了。2010年代以降はアジアを重要な拠点のひとつとし、現在は香港城市大学修士課程の客員教授を務める。

ゲレロはこれまで、フィリピンのベラス・アルテス・プロジェクツのアーティスティック・ディレクター(2018–2021)、テート・モダン(ロンドン)のラテンアメリカ美術部門アジュンクト・キュレーター(2016–2021)、第38回EVAインターナショナル(アイルランド、2018)のチーフ・キュレーターなどを歴任。横浜トリエンナーレ2020では、ラクス・メディア・コレクティブの指揮のもと、横浜美術館での企画展示「エピソード04『熱帯と銀河のための研究所』」を担当した。

コスティナシュとゲレロは、共に香港に拠点を置いた2010年代前半から国際展の現場で交流を深め、多文化・多地域的な視点を共有しながら協働を重ねてきた。両者に共通するのは、西洋中心的なアート史観を相対化し、植民地主義や搾取労働、移民、周縁化された歴史へと光を当てる姿勢だ。2人はこれまで香港、台北、ソウル、サンフランシスコ、マニラ、クアラルンプール、バンコクなどを舞台に多様な背景を持つアーティストたちを紹介してきた。

彼らの活動が大きく注目されたのが、共同アーティスティック・ディレクターを務めた2024年シドニー・ビエンナーレ。「Ten Thousand Suns(一万の太陽)」をテーマに掲げ、祝祭、多様性、先住民性、クィアネスなど、多層的な光が共存する世界観を提示。国際展における「多中心性(polycentricity)」の可能性を鮮やかに示した。

今回の選考について、第9回横浜トリエンナーレ アーティスティック・ディレクター選考委員会委員長で、国立新美術館学芸課長の神谷幸江は、プレスリリースの中で、総合ディレクターで横浜美術館館長の蔵屋美香が提唱する方針「世界のたくさんの地域との対話をサステイナブルな方法で組織する」を踏まえて進められたと明かした。

選考は、国内外の推薦委員13組から22組の候補が挙がり、6人の選考委員による二段階の審査を経て実施された。最終候補者には横浜を訪れてもらい、都市の歴史・文化資源を踏まえた企画案をプレゼン・ディスカッションしてもらったという。

神谷は、コスティナシュとゲレロを選んだ理由を次のように話した。

「彼らは『国際展は本質的にローカルなもの』と語っています。文化的企画を生み出し継続するために、ロー カルな文脈の中で機能し、受け入れられることの必要性を十分に認識し、横浜の持つ交流の歴史に深い関心 を寄せ、この地が築いてきた文化の生態系に関わる意気込みを持っています。ローカルなリアリティ、同時代の課題をゆっくりと考える、新たな横浜トリエンナーレの姿を彼らは想像させてくれました。思いがけない勢いで、繋がっていた世界を分断する力が現れている中で、サステイナブルに繋がることの実践が生まれていくことを心から期待しています」

第9回横浜トリエンナーレ
会期:2027年4月23日(金)〜9月12日(日)
会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)ほか周辺施設
休場日:毎週木曜日(4月29日、9月9日を除く)、4月28日

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