空間・音・光・香りのアーティストらが協業。新生「POLA GINZA」が提示する、商業空間の新しい形
「POLA GINZA」が、妹島和世の建築を基軸に音・光・香りのアーティストたちとともに大規模リニューアルを果たした。光と影、音の揺らぎ、香りの層が重なり合う空間は、従来の商業施設の枠を超えて、美そのものの感じ方を更新する試みだ。

編註:こちらの記事は毎週金曜日に配信されているニュースレターに加筆修正を加えたものです。
大手化粧品企業ポーラのフラッグシップとして銀座1丁目に長年存在してきた「POLA GINZA」が、12月12日に大規模リニューアルを迎えた。新生POLA GINZAが目指すのは、単なる美容拠点ではなく、心と体の「潜在美意識」を呼び覚ますための、都市に開いた新しい感性の装置だという。企業理念である「Science. Art. Love.」を体現する、科学的アプローチとアート体験、そして身体性の回復を統合する場として再構築され、美容だけでなく感性から美しくなる場を提供する。
今回の空間設計を手がけたのは、プリツカー賞ほか世界的に高く評価される建築家・妹島和世。彼女の建築テーマと言える内と外がつながる設計を目指した。
「全てが決められ、作り込まれた環境で体験を強いるのではなく、コントロールできない自然の不便さを含め、うつろい変化していくものと自ら反応し合える環境で、“圧倒的な快適”を体験してもらう。新しいことに自分を開いていく、ということを考えました」
高い天井まで続く正面のガラス窓から外光が柔らかく降り注ぐ1階のテーマは、「フローラの森」。不完全で多様な「美」を象徴する七角形の有機的な柱が木立をなし、まるで「仮想の森」に迷い込んだかのような感覚を呼び起こす。そこに色はなく、代わりに光と影、音、香りが織りなす「ゆらぎ」が空間全体を浸していく。ここに身を置くと、時間の感覚が解けていくようだ。
地下1階は、同じく七角形で構成された洞窟のような個室が隣り合うエステコーナー。薄暗い中に、1階のフローラから取り込まれた外光がほのかに降り注ぐ、瞑想的な空間だ。

異なる分野のアーティストたちが集結
この施設には複数のアーティストが深く関わっている。音楽・音響は音楽家・渋谷慶一郎、照明は豊久将三、香りは和泉侃が参加。それぞれが、この有機的な空間のために独自の作品・演出を制作した。
渋谷による生成型サウンドインスタレーション「Abstract Music」は、二度と同じ瞬間が訪れない音響体験をつくり、空間の呼吸と同期しながら、来訪者に新たな知覚の扉を開く。今回の挑戦について渋谷は、「終わりのない音楽に興味があり、これまでずっと挑戦してきました。2度と同じ瞬間がこない、2度と会えない──そういう感覚は、瞬間に対して敏感になると思います」と語る。
日本の美術館だけでなく、ニューヨーク近代美術館での「Japan Textile展」の展示照明などでも知られる照明家であり、光を巧みに操るインスタレーション作品でも知られる豊久は、妹島から「(光ではなく)影をつくってほしい」という発注に最初は驚いたという。しかし最終的には、全て「手づくり」の照明装置を駆使して、ゆらゆらと移ろう影のインスタレーションを完成させた(入り口左側の壁面には、センサーで捉えた人の動きを影として表現する作品も楽しめる)。豊久は、「これは影というかむしろ“闇”。それを光でつくるという矛盾を実現する難しい挑戦でした。でも、それによって森の中の木漏れ日の中にいるような作品を作ることができたと自負しています」と振り返る。
和泉は、入念なリサーチに基づきポーラという企業体を香りで再解釈し、フローラの森、そして安定と違和感をテーマに、グリーン調とウッディ調の二つの香りで1階と地下1階の空間を満たした。
今回のリニューアルは、単なる商業空間の刷新に留まらない。妹島がつくる建築の透過性、渋谷の音楽が生む知覚の揺らぎ、豊久が創出した影の呼吸、和泉侃による香りの層、それらが相互に変調し合うことで、施設は「美を提供する場所」から「美意識を再編集する場」への進化を目指す。都市のただなかにありながら、時間の密度が変わり、来訪者が静かに内側へ向かっていく──そのような場の誕生は、巨匠建築家が手がけたラグジュアリーブティックが立ち並ぶ銀座という街の文化的ランドスケープにも、控えめながらも新しい息吹を吹き込むだろう。
来年1月14日には東京・青山に「POLA SALON + AOYAMA」オープンし、体験価値を更に拡張するという。再び妹島と渋谷がタッグを組むこちらも話題になりそうだ。









