バンクシーが手がけた「世界最悪の眺め」ホテルが2年ぶりに再開。占領下の現実を伝える場として復活

2025年10月10日、イスラエルとイスラム組織ハマスの間で停戦が発効したことを受け、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区南部の県都ベツレヘムにあるバンクシーの「ウォールド・オフ・ホテル」が再開を正式発表した。同ホテルは2023年以降、閉鎖されていた。

再開が発表されたベツレヘムの「ウォールド・オフ・ホテル」。Photo: THOMAS COEX/AFP via Getty Images

パレスチナ・ヨルダン川西岸地区南部の県都ベツレヘムに位置する、バンクシーが手がけた「ウォールド・オフ・ホテル」が再開された。同ホテルは、2023年10月7日にハマスによるイスラエルへの攻撃をきっかけにガザ地区への爆撃が激化して以降、閉鎖を余儀なくされていたが、約2年ぶりに再び扉を開いた。

ウォールド・オフ・ホテルは、イスラエルとパレスチナを隔てる「分離壁」が建設されてから15年の節目となる2017年3月に、バンクシーが「快適な状態にある者を動揺させる」ホテルとしてオープンさせた。全9室のほぼ全ての窓からは、有刺鉄線に覆われた高さ約9メートルの分離壁が目前に迫り、公式サイトではこの眺めを「世界最悪の眺め」と表現している。

宿泊料金は、二段ベッドの部屋で一泊70ドル(約1万円)から、豪華スイートの495ドル(約7万7000円)まで幅広く設定されている。館内には20点以上のバンクシー作品が展示されており、ホテルそのものがひとつのアート空間として機能している。

また、同施設には地元作家の作品を紹介するアートギャラリーや書店、スプレーペイントショップも併設されている。近隣住民や海外からの観光客にとっての観光拠点であると同時に、紛争下のイスラエルとパレスチナで生きる人々の日常を伝える場としても構想されてきた。

ホテル再開について、マネージャーのウィサム・サルサーはアート・ニュースペーパーの取材に対し、同施設は単なる宿泊施設にとどまらない存在であり、特にベツレヘムの人々を含むパレスチナ人にとって「外の世界と繋がるために不可欠な架け橋」だと語った。その上で、次のように述べている。

「ガザへの壊滅的な攻撃の最中に閉鎖するという決断は、決して容易なものではありませんでした。そして今、私たちは希望をもって再開します。ホテルのアートギャラリーで展示されるパレスチナ人アーティストの素晴らしい作品を通じて、この場所は、消えることを拒む人々の強さ、アイデンティティ、そして折れることのない精神を、生きた形で示し続けています」

さらにサルサーは、再開の意義について次のように続けた。

「再び扉を開き、世界の人々を迎え入れるにあたり、私たちは単なるホテルとしてではなく、パレスチナの物語を訪れる全ての人に伝える、力強い文化的プラットフォームとして存在します。この開かれた扉は、語られるべき物語を伝え続けるという私たちの決意であり、言葉が尽きるときにも、アートが語り続ける場を提供するという姿勢の象徴なのです」

なお、2025年12月現在、日本の外務省はベツレヘムを含むヨルダン川西岸地区へは渡航中止勧告を出している。アメリカ国務省も同様に、「急速に変化する」治安状況を理由に渡航を控えるよう呼びかけている。

しかし、ウォールド・オフ・ホテルは開業当初から、こうした状況を織り込んできた。2017年のオープン時に発表された声明では、「テルアビブ空港での保安検査において、滞在目的やヨルダン川西岸地区へは渡航予定があるかと質問されることを想定してほしい。『はい』と答えた場合、長時間足止めされる可能性がある」と注意喚起している。また、分離壁のすぐ近くに立地しているため、プールを利用する際にはイスラエル軍の許可が必要になる場合があることも記されていた。(翻訳:編集部)

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