バンクシーが英裁判所に新作、即座に覆い隠される──パレスチナ支持デモ制圧への抗議か

9月8日、バンクシーがおよそ3カ月ぶりの新作をロンドンの王立裁判所の壁に発表した。だがすぐに作品は覆い隠され、関係者によるといずれ撤去されるという。

9月8日、イギリス王立裁判所に出現したバンクシーの壁画をバリケード内で撮影するロンドン警察の写真班と警備員。Photo: Dan Kitwood/Getty Images

9月8日の朝、バンクシーロンドンにある王立裁判所が入居する複合施設、クイーンズ・ビルディングの外壁に新作を発表した。

壁画は、イギリスの伝統的な裁判官の衣装である黒いローブとかつらを身に着けた人物が、プラカードを掲げた抗議者を小槌で殴打する様子が描かれている。抗議者は苦悶の表情を浮かべながら地面に横たわっており、プラカードには血を思わせる赤い飛沫が飛んでいる。

バンクシーが新作を自身のインスタグラムで発表してすぐに、作品は大きなプラスチックシートと金属製バリケードで覆い隠され、警備員が配置された。

9月8日、バンクシーがインスタグラムで投稿した作品の写真。Photo: instagram/@banksy
バンクシーの新作はすぐにバリケードで覆い隠され、現場には2人の警備員が常駐している。Photo: X/@DefendourJuries

バンクシーの作品は政治や戦争、資本主義などを批判したものが多い。ガーディアン紙に地元住民が語ったところによると、今回の壁画は9月6日にロンドンで行われたパレスチナ支持のデモで900人が拘束されたことへの抗議だという。マッテオと名乗る人物は同紙に、「彼らが単に壁画を覆い隠すとは、嫌悪すべきことです。彼らは明らかにこれが引き起こす反応を恐れています」と訴えた。

パレスチナ支持のデモを組織したDefend Our Juriesの広報担当者は、バンクシーの新作を受けて、ガーディアン紙に次のようにコメントした。

「法が市民の自由を圧殺する道具として使われるとき、それは異議を消し去るのではなく、むしろ逆の効果を発揮します。バンクシーの作品が示すように、国家は私たち市民の自由を剥奪しようと試みることができますが、私たちの数は多く、不正義に立ち向かう決意が打ち負かされることはありません」

現在現場には2人の警備員が常駐している。イングランド国家遺産リストによると、1964年に完成したクイーンズ・ビルディングは、特別な建築的または歴史的価値を持つ建物に法的保護を提供するグレードII指定建造物に登録されている。BBCの取材に対してイギリスの裁判所・審判所サービスの広報担当者は、王立裁判所が指定建造物であり、「その本来の特性を維持する義務がある」と述べた。そして、裁判所関係者が語ったところによると、壁画はいずれ撤去されるという。(翻訳:編集部)

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CULTURE GALLERY 2024.12.26
バンクシーの2024年を総復習! 9日連続で発表された「動物シリーズ」から4カ月ぶりの新作まで【2024年アートニュースまとめ】
TEXT BY ARTNEWS JAPAN
2024年のバンクシーは、イギリス最大の音楽フェスで政治性の強い作品を公開したり、ロンドン市内で動物をモチーフにした作品を9日連続で発表したりするなど、精力的に活動を行ってきた。写真とともに、正体不明のアーティストの行動を振り返ってみよう。

3月18日、イギリス・ロンドン北部イズリントン地区で発見された新作には、高圧洗浄機らしきものを持った女性の姿と、緑のスプレーペイントで描かれた葉のようなシルエットが描かれている。その後、何者かによって白いペンキが投げつけられ、一時はビニールシートで保護されることに。【続きを読む】Photo: Dan Kitwood/Getty Images

バンクシーが2018年にパリ・ポンピドゥー・センターの駐車場の看板裏に制作した作品を盗んだ罪で、バンクシーの友人を謳う男が裁判にかけられた。被告には執行猶予付き2年の実刑判決と600万円以上の罰金や損害賠償金の支払いが命じられた。【続きを読む】Photo: Aurelien Morissard / IP3 / Getty Images

ストリートから音楽フェスへ。グラストンベリー2024では、当時の英スナク政権による厳しい不法移民施策に批判の目が向けられる中、移民を乗せた膨張式の救命ボートを模した作品が会場に投げ込まれ、観客の間をクラウドサーフィンしていった。【続きを読む】Photo: Jim Dyson/Redferns

8月5日から9日間連続で動物をモチーフに作品を発表したバンクシー。例によって作品はInstagram上で発表され、投稿のコメント欄には、気候変動や環境破壊による野生生物の生息地減少を非難しているといった様々な憶測が飛び交った。【続きを読む】Photo: Carl Court/Getty Images

1日目のヤギに続く動物シリーズより8月6日に発表されたのは、高級住宅地のチェルシーに描かれた見つめ合う2頭のゾウ。【続きを読む】Photo: Yui Mok/PA Images via Getty Images

動物シリーズ第3弾として、8月7日はロンドン東部ジョーディッチ・ハイ・ストリート付近の橋に3匹のサルが登場。【続きを読む】Photo: Henry Nicholls/AFP via Getty Images

8月9日に発表された動物シリーズ第4弾は、ロンドン南東部のベッカム地区の白い衛星アンテナに描かれた遠吠えするオオカミ。しかし発表からまもなく、覆面姿の何者かによってアンテナごと持ち去られてしまった。【続きを読む】Photo: Jordan Pettitt_PA Images via Getty Images

動物シリーズ5作目は8月9日に発表。魚をついばむ2羽のペリカン。ロンドン北東部にあるフィッシュ・アンド・チップス店の看板も作品の一部に。【続きを読む】Photo: Matthew Baker/Getty Images

8月10日に明らかになったのは、伸びをする大きな黒猫。ロンドン北東部にある空き看板に描かれた動物シリーズ6作目にあたる本作は、盗難を恐れた業者によって、数時間後に撤去された。【続きを読む】Photo: AFP via Getty Images

8月11日、動物シリーズ第7弾のキャンバスとなったのは、ロンドンの金融街、シティ・オブ・ロンドンの警備派出所。そこにピラニアの群れが描かれている様子はCCTVカメラにも映っており、ロンドン市警は「犯罪行為だ」と声明を発表した。【続きを読む】Photo: AFP via Getty Images

8作目となる「車に足をかけたサイ」は8月12日に発表。多くの人はサイと車が交尾をしていると解釈し、「産業界が自然を愚弄(Fuck)したように、今度は自然が産業界を愚弄(Fuck)しようとしている」などのコメントがネットを賑わせた。【続きを読む】Photo: Getty Images

いよいよ8月13日、シリーズ9作目にして最終作が発表された。舞台はロンドン動物園のシャッターで、ゴリラがアシカと鳥を解放する様子をその他の動物が内側から眺めているように描かれている。このシャッターは現在撤去され、レプリカに置き換えられている。【続きを読む】Photo: Leon Neal/Getty Images

バンクシーの代表作の一つである《風船を持った少女》がロンドンのギャラリーから盗み出された。犯行の一部始終は監視カメラに収められていたことから、犯人は1週間以内に逮捕された。【続きを読む】Photo: Getty Images

2006年にバンクシーが《Well-Hung Lover》を描いたイギリス・ブリストルの物件が、作品ごと2025年2月にオークションに出品されることが発表された。予想価格は70万ポンド(1億3000万円)。【続きを読む】Photo: Andrew Michael/Education Images/Universal Images Group via Getty Images

12月17日、バンクシーが約4カ月ぶりに自身のInstagramに新作を投稿。コメント欄にはパレスチナ支持のメッセージや、母親は聖母マリアだとする見解、母と子の様子から「別離」や「機能不全に陥った社会」を暗示しているのではないかといった憶測が飛び交った。【続きを読む】Photo: Instagram/@banksy

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