MSCHFの「牛の生死」をめぐるプロジェクトに賛否──「消費と倫理をエンタメ化している」との批判も

アーティスト集団MSCHFが仕掛けた「牛の生死」をめぐるプロジェクトの行方が、約2カ月後に決着を迎える。産業と消費者の倫理観を問い直す挑発的な試みである一方、深刻な問題をエンタメ化しているとの批判も、批評家や活動団体から上がっている。

MSCHFの最新プロジェクト「Our Cow Angus」の題材となっているアンガス。Photo: Courtesy of MSCHF

今から約2カ月後、アンガスと名付けられた牛の生死が決まる。ニューヨーク州北部の農場で暮らすこの牛は、アーティストコレクティブのMSCHF(ミスチーフ)による「Our Cow Angus」と題されたプロジェクトを通じて、ハンバーガーパティやハンドバッグに姿を変える可能性がある。ただし、プロジェクトを手がけるMSCHFは、この結末が別のかたちに転ぶことにも期待を寄せているようだ。

このプロジェクトが始まったのは2024年8月で、2種類の「Angus Token」──ひとつは35ドル(現在の為替で約5500円)で約140グラムのパティ3枚セット、もうひとつが1200ドル(同約18万円)でハンドバッグ1点をのちに入手することができる──が販売された。これら商品は、牛が屠殺される一般的な年齢である2歳をアンガスが迎えた時点で製造される予定だ。プロジェクトのウェブサイトでは、農場で暮らすアンガスの様子を記録した日記も公開されているが、現在は更新が止まっている

ただし、Angus Tokenの購入者である「Angus Steakholder(ステークホルダー=stakeholderとステーキ=steakの造語)」と呼ばれる人々は、「Remorse Portal(後悔ポータル)」を通じて購入予約をキャンセルすることが可能だ。購入者の50%がキャンセルした場合、アンガスの屠殺は中止され、売上はすべて「アンガスが余生を幸せに過ごせるための保護施設に送るために使われる」という。支払った金を失いたくないトークン保有者は、セカンダリーマーケットでトークンを売却することもできる。MSCHFは、屠殺に反対する人々がこの二次市場でトークンを買い取ることでアンガスを救えるとして、こうした取引を推奨している(記事の執筆時点で、キャンセルされた購入は31.8%にとどまっている)。MSCHFのメンバーのひとり、ケヴィン・ウィースナーは、アート・ニュースペーパーに次のように語る

「私たちの作品の多くは、ビジネス・製品・消費者という関係のなかで、架空の経済取引や関係性を生み出すことが中心となっています。こうした投機的で批判的な商業の仕組みにおいて最も重要なのは、宣言したことを確実に実行することです」

このプロジェクトが、食肉業界における動物の扱いへの問題提起であることは明らかだ。ウェブサイトには、アンガスが屠殺された場合にはすべての部位を余すことなくパティにすると記されている。ただ、ヒレやサーロインといった高級部位や内臓までを挽肉にするケースは、一般的にはあまり見られない。サイト上でもこうした点に言及し、「適切な食肉処理では、一頭丸ごとを挽肉にすることは決してない」と説明したうえで、次のような考えを示している。

「環境汚染は消費者の責任であるという言説は、それを引き起こしてきたビジネスによってまことしやかに流布されてきた。そして、(消費者に責任を押し付けるなという)責任転嫁に対する批判は、逆に個人の努力では何も変わらないという諦念を生み、主体性を放棄した私たちは行動を起こす意欲を失った。しかし、社会と産業の仕組みに逆らってアンガスを生かしたいと願うなら、トークンを購入し、キャンセルする以外の道はない。コンシャス・コンシューマリズムこそが、この状況を打開することができるのだ」

しかし、批評家たちはこの主張に納得していない。むしろ、このプロジェクトは深刻な倫理問題を見世物に変えていると批判している。また、MSCHFがこのプロジェクトを発表した当時、動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)は、「多くの人々が暴力の沈静化を望んでいる時代に、生命を奪うことをゲーム化するのは恥ずべきことだ」と、ビジネスメディアのFast Companyに語っている。(翻訳:編集部)

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