「AI生成アートを食べた」大学生を器物損壊容疑で起訴。動機は「AIを用いた制作への抗議」
生成AIツールが一般化した一方、学習段階、生成・利用段階双方での著作権侵害問題については、アーティストやクリエーター団体からの改善要求や訴訟が続いている。そんな中、AI生成アートに抗議するアメリカの大学生が、作品を食いちぎる事件が発生した。

アーティストやクリエイティブワークに携わる人々(ジャーナリストも)は、自分たちの著作物がテクノロジー企業に吸い取られ、AIを用いた画像・テキスト生成ツールの学習材料として使われることに深い懸念を抱いている。
2023年には複数のデジタルアーティストがStability AIやMidjourneyといった新興AI企業、画像投稿サイトのDeviantArtを相手取った著作権侵害の集団訴訟を起こし、オンライン・ファストファッションのSHEINに対するデザイン盗用の訴訟を提起したグループもあった。こうした訴訟の一部は2024年に勝訴したものの、自分たちの成果物の際限なき盗用に歯止めをかけることはできないと、無力感を覚える作家は少なくない。
そんな中、アラスカ大学フェアバンクス校の学部生の1人が、これまで誰も思いつかなかったAI生成アートへの対抗手段に訴えた。同校で映画・舞台芸術を学ぶグラハム・グレンジャーが、大学院生ニック・ドワイヤーのAI生成アートを見るや否や、その作品の一部を噛みちぎり、食べたというのだ。
フェアバンクス校の学生新聞サン・スターによると、動機は抗議の意思を示すためとされ、同紙のリジー・ハーンは次のように記している。
「大学警察の報告書によると、グレンジャーは作品が生成AIで制作されたものだから破壊したと主張している。被害を受けた展示作品の制作者であるドワイヤーは、作品に関するステートメントで、『AIサイコーシス(精神症)に陥る前後およびその最中におけるアイデンティティやキャラクターの物語の創作、また、デジタルによるインタラクティブな役割を通じて形成された関係性についての偽りの記憶を探求するもの』と説明している」
AIサイコーシスは臨床的な診断名ではないが、心理学専門誌のサイコロジー・トゥデイによると、最近議論が広まりつつある心理的現象だという。原因はAIチャットボットとの過度の交流や依存で、「誇大妄想や被害妄想、人間関係や恋愛に関する妄想、幻覚、執着」などの精神症的な症状を引き起こす可能性があるとされる。
アラスカ州裁判所システムから得た情報によると、グレンジャーは1月14日に250ドル(約4万円)未満の損害に対する器物損壊罪(B級軽犯罪)で起訴された(判事はマリア・P・バー)。

学生新聞の写真から判断すると、《Shadow Searching: ChatGPT psychosis(シャドーサーチング:ChatGPT サイコーシス)》(2025)と題されたこの作品は、壁にピンで留められた多数の小さなポラロイド風写真で構成されている。展示のラベルには「ドワイヤーとAIによる作品」と記され、ハーンの記事によれば警察は160枚の画像のうち少なくとも57枚が損壊したと見ている。被害を受けたドワイヤーは事件についてこう語った。
「芸術を創造するとき、人は傷つきやすくなります。だからこそ作品もまた傷つきやすいのです。そのことが作品をより生き生きと、よりリアルに感じさせ、今この瞬間に存在するという感覚を強めるのです」
US版ARTnewsではドワイヤー、グレンジャー、アラスカ大学と大学警察にコメントを求めたが、現時点で回答はない。
なお、ドワイヤーの作品を含むグループ展「This Is Not Awful(そんなに悪くない)」は、アラスカ大学フェアバンクス校のアートギャラリーで1月23日まで開催中。同展には、ドワイヤーと同期の大学院生であるサラ・デクスター、エイミー・エドラー、アイリス・サットン、マシュー・ウーラーの作品も展示されている。(翻訳:石井佳子)
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