米辞書が選ぶ今年の単語は「Slop」。泥水・汚物などを意味する「AIを的確に言い表す」言葉
SNSで拡散される奇妙なAI画像や動画は「Slop(スロップ)」と呼ばれている。泥やぬかるみ、排泄物を意味するこの言葉が、アメリカのメリアム=ウェブスター辞典の今年の単語に選ばれた。

玄関先でネコが料理をしている動画や、エビの足が生えたキリストの画像を見たことはないだろうか。一見すると奇妙で意味不明なこうしたコンテンツは、OpenAIの動画生成AI「Sora」や画像生成AIのMidjourneyによって出力されたもので、「AI Slop(AIスロップ)」と呼ばれることもある。
そしてこの「Slop」が、アメリカのメリアム=ウェブスター辞典が毎年発表している「今年の単語」に選ばれた。
泥やぬかるみを意味する言葉として1700年代に初めて使われた「Slop」は、その後、価値の低いものを指す言葉へと意味を拡張してきた。そして、生成AIが普及した現在では、人工知能によって大量に生産される低品質なデジタルコンテンツを指す言葉として用いられている。今年の単語を発表するにあたって、メリアム=ウェブスター辞典のプレジデント、グレッグ・バーロウはAP通信の取材に対し、次のように語っている。
「(AIによって生成されたものを)非常にイメージしやすい言葉と言えるでしょう。私たちの生活に変化をもたらしているテクノロジーの特徴を鮮やかに捉えており、人々が魅力的だと感じると同時に、煩わしさと滑稽さも感じられるこの技術の特徴を的確に言い表しています」
AIスロップをめぐっては、深刻な懸念も指摘されている。存命の人物や故人が無断で登場することで、誤情報やディープフェイクが拡散するリスクがあるほか、著作権で保護されたキャラクターや実在のアーティストの作風・声を容易に再現できる点も問題視されている。こうした状況を受け、配給会社やレコード・レーベルがAI企業を相手取って訴訟を起こすケースも相次いでいる。
その一方で、ディズニーがOpenAIと3年間のパートナーシップを結んだほか、ユニバーサル・ミュージックも音楽生成AI「Udio」との訴訟で合意に達し、2026年には新たな音楽生成プラットフォームを共同でローンチする予定だという。
英語の辞書が、AIやインターネット文化に関連する言葉を「今年の単語」として選ぶ流れはこれまでにもあった。2023年には、ケンブリッジ・ディクショナリーが、AIが誤った情報を生成する現象を指す「Hallucinate」を選出した。同辞典は今年、インフルエンサーやAIとの一方的な心のつながりを意味する「Parasocial(パラソーシャル)」を今年の言葉に選んでいる。
AIはアート業界でも作品制作から真贋鑑定まで、至るところで活用が進んでいる。一方で、クリスティーズで開催されたAIアートオークションの中止を求める書簡が公開されたり、一部のアーティストたちから機械学習用の訓練データとして作品を用いることは著作権侵害にあたるという声が上がるなど、反発も根強い。
こうした中、メリアム=ウェブスター辞典のバーロウは、AP通信にこう語った。
「人々は純粋かつリアルなものを求めています。Slopという言葉には、反発の意が込められているのではないでしょうか。人間の創造性を置き換えようとする生成AIには限界が見えているのかもしれません」