財政難のNYメトロポリタン歌劇場、シャガール大作2点の売却を検討。「あらゆる収益化の可能性を探る」
アメリカの歴史あるオペラ・ハウス、メトロポリタン歌劇場が、コロナ禍で悪化した財政難から立ち直れていない。その打開策として、シャガールが同劇場のために1966年に制作した壁画2点の売却を検討しているという。
アメリカを代表するオペラ・ハウス、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場は、現在深刻な財政難に直面している。その打開策として、マルク・シャガール作の壁画2点を売却する可能性が浮上している。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、売却後も作品は劇場内に留め置かれる予定で、サザビーズは2点の評価額を合計5500万ドル(約87億2500万円)と見積もっている。売却が検討されているのは、1966年に劇場で公開された《Le Triomphe de la Musique(音楽の勝利)》と《Les Sources de la Musique(音楽の源)》で、いずれもおよそ9メートル×11メートルの大作だ。これらは劇場のバルコニー席「グランド・ティア」の壁面を彩っている。
同紙によると、メトロポリタン歌劇場の年間予算は約3億3000万ドル(約523億6000万円)だが、それでも財政状況は十分とは言えない。2022年以降は保有基金の3分の1以上に該当する総額1億2000万ドル(約200億円)を取り崩しており、公演日数の削減といった緊縮策も講じられている。
さらに同劇場は、サウジアラビアとの契約から1億ドル(約158億円)以上の収入を見込んでいる。これは、サウジアラビアで毎年冬に3週間の公演を行うという契約だが、同国では反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ殺害事件など深刻な人権侵害が起きていることから、契約には批判もある。ゼネラル・マネージャーのピーター・ゲルブは契約の実現性を強調しつつ、「サウジアラビア側も経済的理由から予算の見直しを迫られていると聞いている」と慎重な見方を示している。
舞台美術と衣装デザインも手がけたシャガール
シャガールはオペラとも縁が深く、1966年にはモーツァルトの『魔笛』で舞台美術と衣装デザインを手がけている。音楽評論家のアラン・リッチは、これらの壁画について「空想的な人物像と大胆で鮮やかな色使いは、一目でシャガールとわかる」と高く評価した。
一方でリッチは、その強い個性ゆえに観客の関心が作品に集中しすぎた可能性も指摘し、「観客の多くはシャガールが舞台美術だけでなく、作曲や脚本、指揮まですべてすべてを担っていたと感じたのではないか」と皮肉を交えて語っている。
これらの壁画は、メトロポリタン歌劇場の財政難をめぐる過去の報道でもたびたび取り上げられてきた。2009年には、JPモルガン・チェースから3500万ドル(約55億5400万円)の融資を受ける際、その担保として壁画が差し出されている。また同劇場は、シャガールが『魔笛』のために描いた背景画を100万ドル(約1億5800万円)で売却した前例もある。
シャガール作品の最高落札額は約45億円
シャガール作品の市場価値は高く、オークション最高額は《Les Amoureux(恋人たち)》(1928)で、2017年に2850万ドル(現在の為替で約45億円)で落札された。これは最高予想価格の1800万ドル(同約28億5600万円)を大きく上回る結果だった。1990年以降、彼の作品は1000万ドル(約15億8000万円)を超える価格で取引される例も少なくない。こうした評価の高さは、2025年2月にウィーンのアルベルティーナ美術館で開催された没後40年記念の大規模回顧展でも示されている。
2006年に開設されたメトロポリタン・オペラのアートギャラリーでは、セシリー・ブラウンやジョージ・コンド、ラシード・ジョンソン、アンゼルム・キーファー、エリザベス・ペイトンなどの現代アーティストの展覧会が開催されてきた。現在はシャラ・ヒューズの展覧会が開催中だ。
ゲルブによれば、メトロポリタン歌劇場は命名権の販売も検討しているという。隣接する2つの建物は支援者の名前を冠しており、デイヴィッド・ゲフィン・ホールはニューヨーク・フィルハーモニックの、デイヴィッド・H・コッホ・シアターはニューヨーク・シティ・バレエの本拠地となっている。また、通常は使用していない時間帯に劇場を他の演奏家に貸し出すことも検討しており、ゲルブは「あらゆる収益化の可能性を探っている」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。(翻訳:編集部)
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