NADAが「コレクター育成」に注力──「必要なのは大金でも知識でもなく、安心して話せる環境」
現代アートを扱うギャラリーやディーラーの会員組織である非営利団体NADA(The New Art Dealers Alliance)が、初心者コレクター向けのサロン開催に取り組んでいる。その経緯と実際の活動について取材した。

アートコレクションを始めるにあたっての最大の障壁は購入資金、そして所蔵品を置くスペースの問題だろう。しかし、見過ごされがちだが大きな障壁がもう1つある。それは心理的な敷居の高さだ。現代アートも、それを展示するギャラリーも、威圧的だったり、お高くとまっていたり、あるいはその両方だと感じる人は少なくない。つまり、大抵の場合、アートスペースは居心地の良い場所ではないのだ。
コレクター志望者向け講座が復活
この問題に正面から取り組もうと、アメリカの現代アートディーラー団体であるNADAは最近、アートコレクター向けサロン「NADA Collects(NADAコレクツ)」の開催を始めた。
これを聞いて、アート業界の低俗化につながるのではないかと反射的に思った人は、ライターのドメニック・アミラティが2025年にコンテンツ配信プラットフォームのSubstackで書いていた歴史的な事例、すなわちコリン・デ・ランドが不定期で開催していたアートコレクター志望者のための講座を思い出してほしい。デ・ランドは型破りな経営者としてアメリカン・ファイン・アーツ・ギャラリーを運営し、1980年代から90年代にかけて前衛的なアートディーラーとして活躍した人物だ。
NADAのディレクターを長年務めるヘザー・ハブスにとって、コレクター向けサロンの構想は、「ギャラリーが自立してやっていく力を与える」というNADAのミッションを考えれば自然なことだった。
NADAは会員向けのニュースレターを毎月発行し、ギャラリーの活動内容を日常的にインスタグラムで発信している。マイアミで毎年開催されるNADAのアートフェアでは、ペレス美術館マイアミに作品取得の資金提供を行っているほか、会員ギャラリーから購入した作品のコレクションも所有している。
1年前には長年の会員が新しい会員を指導するメンターシップ・プログラムを立ち上げ、ロサンゼルスではギャラリーコミュニティを支援する「ディーラーズ・アンド・ドーナツ」と呼ばれる交流会を日曜の朝に開催している。これはディーラーが他のディーラーを招き、NADAがドーナツ代を負担するというものだ。
「コレクターになるのに大金は必要ない」
昨春、ハブスがNADAの理事と電話で話していると、話題がアート収集のことになった。その理事が指摘したのは、コレクションを始めるのに大金持ちである必要はないと認識している人が少ないということだった。たとえば、2000ドル(30万円程度)の絵画作品からコレクションを始めてもいいのだ。
「そこで、アートコレクションのやり方や、なぜアート収集が重要なのかについて、NADAが音頭を取って啓蒙活動をすべきという話になりました」
その理事は、既にサロン活動を始めていたアートアドバイザーのアン・パークに相談するようハブスに勧めたという。ハブスがマンハッタンのダウンタウンにあるNADAのオフィスで初のディナーを開催したのは10月で、それがきっかけで2点の作品に買い手がついた。その後も月に1回程度、1軒ずつギャラリーを招き、展覧会のプログラムやアーティストを紹介するイベントを、ギャラリー訪問やディナーなどの形で開催している。その際に重要なのは、相手の立場に立って接することだとハブスは言う。
「どんな質問でも、くだらないということはありません。たとえば、ギャラリーには何を着ていけばいいのか分からないと躊躇しているのなら、その悩みを解消すればいいのです」
誰もが気軽に話せる環境作りを目指す
サロンでは、コレクターがギャラリストと打ち解けやすくなるだけではなく、その逆の効果もある。NADAはギャラリストたちとともに、「誰にとっても、どんな内容であっても、安心して気軽に話せる環境を作る」ことを目指している。そして、こうした試みは、初心者ではないコレクターにとっても魅力的に感じられるようだ。ハブスはこう説明する。
「参加者の顔ぶれや、各人がどのような段階にあるのかを観察するのはとても興味深いことです。収集のことをよく学んでいる人がいるのも分かりました」
ハブスが考えるNADA Collectsプログラムの次のステップは世代間の問題で、「遺産継承とその重要性を伝える」ことだという。
「今、年配のコレクターの多くが亡くなっていますが、その子ども世代がコレクションに関心を持たず、処分するためだけにオークションに出しているように思えるからです。まだその準備はできていませんが、いずれは取り組みたい課題です」(翻訳:清水玲奈)
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