「明晰さは創造性の敵ではない」──CFO兼彫刻家が、アーティスト向け金融コンサルを始動
20年にわたり金融とスタジオ運営の現場で経験を積み、自身も彫刻家として活動してきたヴィクトリア・ヘレナ。CFOとしての実務経験を携え、アーティストが直面する「お金の問題」に正面から向き合う金融コンサルを始動させた。

ヴィクトリア・ヘレナは、多くのアーティストには想像もできないようなキャリアを築いてきた。過去20年にわたり、彼女は金融とスタジオ運営の分野で働きながら、自身も彫刻家として制作を続けてきたのだ。その結果、(通常、アーティストが苦手とされる)数字や資金の流れと、アート制作につきまとう心理的現実という、本来は交わりにくい二つの世界を横断する稀有な感覚を獲得した。そんな彼女が今月、アーティスト・ファーストの金融コンサルティング「Artist Money Matters」を創設した。
US版ARTnewsは、なぜアーティストが金銭の話題を避けがちなのか、契約においてどのような点を誤りやすいのか、そして金融リテラシーがなぜ今日、アート界における「経済的正義」の問題となっているのかについて、ヘレナに話を聞いた。

アートを取り巻く経済は「しばしば搾取的」
──自らを「アーティストであり、元CFOでもある」と表現していますが、あまり一般的な組み合わせではありませんね。これまでの経緯を教えてください。
私はずっと、金融と芸術という二つの世界に足を置いてきました。とても実践的なかたちで「お金」に囲まれて育ったんです。子どもの頃から、シングルマザーのバーテンダーであった母が毎晩シフト終わりに現金を数える姿を見ていきました。学生時代は、数学の単位の一つとして選択できた会計学を学びました。私と相性が良かったようで、論理的で落ち着く作業であり、すべてがきちんと合致する感覚があったんです。
同時に、私はずっと制作も続けていました。彫刻を学び、最終的にイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士号を取得しました。そうこうしているうちに、アーティストたちが、他では答えを得られない質問を私のもとに持ち込むようになっていったんです。「確定申告のやり方」だけでなく、「この展覧会の依頼を引き受ける余裕があるのか」「この契約は普通なのか」「キャリアは順調に見えるのに、なぜこんなに経済的に苦しいのか」といった問いでした。
──それが「Artist Money Matters」設立につながったのですか。
そうです。最初は友人や同級生、同僚たちに対して、非公式なかたちで始まりました。RCAを卒業する頃には、何かに署名する前には必ず相談される存在になっていたんです。「Artist Money Matters」は、そうしたニーズから自然に生まれました。
アーティストを取り巻く経済状況は、不安定で不透明、そしてしばしば搾取的です。そのなかでアーティストは、ますますリスクの高い財務上の判断を迫られています。それにもかかわらず、独立した、十分な情報に基づくサポートを受けることは期待されていません。
「アーティストとは貧しいもの」という刷り込み
──そもそも、お金の話をすること自体に抵抗を示すアーティストも多いです。なぜだと思いますか。
そこには深い心理的要因があります。お金は、恥や恐れ、アイデンティティと強く結びついており、とりわけアーティストにとってはそうです。私たちは早い段階から「芸術家とは貧しいもの」という神話を刷り込まれ、同時に、お金を気にすることは作品の純粋性を損なう行為だとも教えられます。これは二重拘束です。作品では脆弱さをさらけ出すことを求められながら、生き延びるための現実的な話題については沈黙を強いられる。
誰かと仕事を始める際、最初に話すのは数字ではないことも多い。重要なのは、むしろその人とお金との関係を解き明かすことです。家族がお金とどう向き合ってきたか、同世代の仲間たちの価値観はどうか。そこを理解すると、実務的な話はずっと容易になります。
──キャリアが成長する過程で、アーティストが最も陥りがちなミスは何でしょうか。
「何を求めてよいのか」を知らないことです。それはあらゆる場面に表れます。契約書、予算、制度的な招聘──。アーティストには、「名誉ある機会」や「キャリアにつながる」といった言葉で提示される案件が多い一方で、金銭条件が曖昧、あるいは非現実的な場合も少なくありません。作品制作に実際いくらかかるのかを把握していなければ、知らず知らずのうちに負債を抱える条件に同意してしまうことになります。
私が常に最初に確認するよう伝えているのは、支払い条件と知的財産権です。支払い条件が明確に書かれていれば、「いつ支払われるのか」と不安になる必要はありません。つまり、それが不明確であること自体が、すでに問題なのです。
金融リテラシーが特権であってはならない
──新進作家から大規模スタジオまで、幅広く関わってきたそうですね。アプローチは変わりますか。
原則は同じですが、規模が異なります。私は、キャリアを築き始めたばかりの個人作家から国際的なスタジオまで、支援してきました。近年では、ロンドンを拠点としたアート集団で、大規模な公共コミッションを多数手がけるランダム・インターナショナルや、急速なキャリア加速期にあるラディカ・キムジといったアーティストなどとも仕事をしてきました。
新進作家に必要なのは基盤です。毎週パニックに陥るのではなく、月に一度確認すれば済むような仕組みづくりです。中堅作家には、スタジオ拡大や収入構造の複雑化に対応するための再構築が求められます。確立したスタジオの場合、たいていは何かがすでに破綻した後で、リセットを必要としる場合が多いです。
──あなたはこの仕事を「経済的正義」の一形態だと位置づけています。
金融リテラシーの欠如は偶然ではありません。人はお金を理解していなければ、搾取されやすくなる。特にアーティストは、リスクを引き受ける一方で、価値は他者に回収されがちです。「Artist Money Matters」は、意図的に独立した成果報酬や売上連動ではない定額報酬のコンサルティングとして設計されています。コミッションも、売上に対するパーセンテージもありませんし、販売と連動したインセンティブもありません。この独立性が重要なのです。
アーティストが自らの財務状況を理解すれば、作品を守り、公正に交渉し、自分自身の条件でキャリアを築くことができます。それは特権であってはならない。基本的なインフラであるべきです。
アーティストを長期的に支える仕組み
──同名の書籍も刊行予定とのこと。「Artist Money Matters」の実際の取り組みとどのように関係していますか。
本の構成は、私の実務の進め方そのものです。第1部はお金の心理学、第2部は平易な言葉で解説する会計の基礎、第3部では契約、交渉、互恵性、長期的な計画といった、現実世界でそれらをどう統合するかを扱います。
すべての人がコンサルタントを雇えるわけではありません。その点は十分に意識しています。この本は、見下されたり圧倒されたりすることなく、すぐに使えるツールとして手に取ってもらうためのものです。成功のかたちを押し付けるのではなく、道具を手渡すことが目的です。
──もしアーティストがあなたの仕事から一つだけ学ぶとしたら?
「明晰さは創造性の敵ではない」ということです。むしろ、それがあるからこそ続けられる。アートは長距離走です。何十年にもわたって制作を続けたいのであれば、その志を静かに損なうのではなく、支える仕組みが必要なのです。
from ARTnews