米アーティストビザ審査基準に変化。SNS時代の「量」が評価される現実に、弁護士らが懸念
科学や芸術分野で「卓越した能力」をもつ外国人を対象に発給されるアメリカの「O-1ビザ」審査に変化が起きている。移民弁護士らは、卓越性よりもフォロワー数や収益性を重視する評価基準に懸念を示している。
科学や芸術、教育、映像、スポーツといった分野で、「卓越した能力」をもつ外国人に発給されるアメリカの就労ビザが、「O-1ビザ」(通称アーティストビザ)だ。その取得は高い専門性と実績が求められることで知られており、多くの書類提出や高額な費用が必要とされる。2020年にアートメディアのHyperallergicが報じたところによれば、申請者は多数の推薦状に加え、安定した収入を得られることを示す労働契約書や、卓越性を示す報道実績などを提出しなければならない。
ところが近年、O-1ビザを申請する人々の顔ぶれに変化が生じている。フィナンシャル・タイムズ紙の取材によれば、インフルエンサーや、アダルトコンテンツが多く投稿されているSNS「OnlyFans」のクリエイターたちが、このビザを通じてアメリカへの移住を計画しているという。
同紙の取材に応じた移民弁護士たちは、こうしたコンテンツクリエイターの増加に伴い、申請基準そのものが変化していると指摘する。クリエイターたちの「卓越性」は、フォロワー数や収益規模といった数値によって証明され、ブランドのプロモーション投稿やエンドースメント契約も、クリエイターとしての才能の裏付けとみなされる可能性がある。また、マッケンティー・ロー・グループの創業パートナーであるフィオナ・マッケンティーは、店舗のオープニングイベントに招待されることでさえ、イベント制作において重要な役割を果たした「証拠」として評価されうると語っている。
一方で、こうした基準の変化に懸念を示す専門家もいる。ダリヤナニ・ロー・グループのマネージングパートナー、プロティマ・ダリヤナニは、「本来承認すべきではない人がO-1ビザを取得しており、承認される人々の質は低くなっている」と批判。また、SNSのフォロワー数やエンゲージメント率など、アルゴリズムに基づく数値指標が重視されることで、審査官は芸術の価値を数字で判断するようになるのではないか、という懸念の声も上がっている。
とはいえ、O-1ビザの発給数は依然として少数にとどまっている。2024年に発給された非移民ビザおよそ1098万件のうち、O-1ビザは1万9457件と全体の約0.17%にすぎない。
O-1ビザには、O-1AとO-1Bの2種類があり、それぞれ対象分野と要件が異なる。O-1Aビザは科学、教育、ビジネス、スポーツ分野の人々を対象とし、O-1Bは芸術、映画、テレビ業界の従事者を対象としている。
O-1ビザの創設は、ニクソン政権がジョン・レノンに国外退去命令を言い渡したことに端を発する。1972年にニクソン政権がレノンを国外追放しようとした際、アーティスト専用のビザは存在しなかったため、彼の弁護士を務めたレオン・ワイルズは芸術分野で「傑出した人物」としてレノンを扱うよう政府に申請した。議会はのちに1990年の移民法を可決した際、O-1Bビザを正式に認め、「移民と外国人労働者は国家の経済、文化、福祉に実質的に貢献すべきである」と記した。(翻訳:編集部)
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